その日の夜、ベッドで横になった私は、動画サイトで今日のレースを何度もみなおしていた。
――役割、か
レースをぼんやり観ながら、おじいちゃんの言葉を思い出す。その言葉は、秀人が言ってたことと同じだけに、なぜか胸の中でざわめきとなって私になにかを訴えているような感じだった。
――勝ちにこだわるのがそんなに悪いことなのかな?
脳裏をよぎる嶋田さんのうつむいた後ろ姿に、胸の奥がきりきりと痛みだす。調べたところ、お客さんの大半が嶋田さんを一着になると予想してなかった。
――自分が勝ったらダメってこと?
動画にあった嶋田さんのインタビューでは、四日間開催されるレースで決勝まで勝ち進んで結果を出したいと言っていた。おじいちゃんもそんなことを言ってたから、むしろ勝ちにこだわって当然なような気がしてならなかった。
もやもやした気持ちのまま、再びレースを見ようとした時だった。
不意に届いたラインに、心臓が裏返るぐらいにびっくりした。見慣れたアイコンと同時に表示されたのは、美由希の名前だった。
『バトンパスがうまくいかなくてごめんね。私、もっと頑張って練習するから。千夏ちゃんには迷惑かけないようにするから、絶対に北陵に勝とうね』
恐る恐る開いた中身に、私はひどく気持ちが沈んでいった。
――こんな風に思われたら、私が馬鹿みたいじゃん
美由希の言葉に一瞬苛立ちを感じたけど、すぐにそう感じた自分が嫌になった。
美由希が悪くないのはわかっている。それに、秀人の話だと美由希は一人で夜も練習して頑張っている。その理由は、自分の役割に徹するためだろう。
だとしたら、勝ちにこだわる私はどうだろうか。チームで勝つことを考えたら、割りきってオーバーハンドパスを選択する方がいい。そうすれば美由希の負担は減るだろうし、チームの士気も高まるはずだ。
けど、オーバーハンドパスを選択してしまったら、私の勝ちはなくなるのが目に見えている。スタートダッシュで遅れをとってしまえば、いくら得意なコーナー戦とはいえ北陵学園に勝つのは無理だった。
――でも、やっぱり勝ちたいんだよね
勝ちたい自分とチームに貢献すべきとする自分が、頭の中でにらめっこする。勝ちたい理由は、やっぱり勇也に認められたいのが一番だった。
練習で話をすることはあっても、勇也が私を特別視していないのはわかっている。たぶん、勇也にしたらよくいる陸上女子の一人ぐらいの認識しかないだろう。
だからこそ、最後の大会は活躍して勇也の気を引きたかった。幼稚な発想だと言われるとしても、走る以外に取り柄のない私には、その方法しかすがるものがなかった。
――なんて返事しよう
送られてきたメッセージを読み返しながら、気持ちのこもらない言葉たちを頭に並べたてていく。きっと美由希は私の返事を待ってるだろうから、既読無視はさすがにやるわけにはいかなかった。
気づくと流れていく時間に焦りながら、とりあえずの返事を急いで送る。
今の私は、もうまともに美由希と向かい合うことすらできないほど、自分がどうするべきかわからなくなっていた。
――役割、か
レースをぼんやり観ながら、おじいちゃんの言葉を思い出す。その言葉は、秀人が言ってたことと同じだけに、なぜか胸の中でざわめきとなって私になにかを訴えているような感じだった。
――勝ちにこだわるのがそんなに悪いことなのかな?
脳裏をよぎる嶋田さんのうつむいた後ろ姿に、胸の奥がきりきりと痛みだす。調べたところ、お客さんの大半が嶋田さんを一着になると予想してなかった。
――自分が勝ったらダメってこと?
動画にあった嶋田さんのインタビューでは、四日間開催されるレースで決勝まで勝ち進んで結果を出したいと言っていた。おじいちゃんもそんなことを言ってたから、むしろ勝ちにこだわって当然なような気がしてならなかった。
もやもやした気持ちのまま、再びレースを見ようとした時だった。
不意に届いたラインに、心臓が裏返るぐらいにびっくりした。見慣れたアイコンと同時に表示されたのは、美由希の名前だった。
『バトンパスがうまくいかなくてごめんね。私、もっと頑張って練習するから。千夏ちゃんには迷惑かけないようにするから、絶対に北陵に勝とうね』
恐る恐る開いた中身に、私はひどく気持ちが沈んでいった。
――こんな風に思われたら、私が馬鹿みたいじゃん
美由希の言葉に一瞬苛立ちを感じたけど、すぐにそう感じた自分が嫌になった。
美由希が悪くないのはわかっている。それに、秀人の話だと美由希は一人で夜も練習して頑張っている。その理由は、自分の役割に徹するためだろう。
だとしたら、勝ちにこだわる私はどうだろうか。チームで勝つことを考えたら、割りきってオーバーハンドパスを選択する方がいい。そうすれば美由希の負担は減るだろうし、チームの士気も高まるはずだ。
けど、オーバーハンドパスを選択してしまったら、私の勝ちはなくなるのが目に見えている。スタートダッシュで遅れをとってしまえば、いくら得意なコーナー戦とはいえ北陵学園に勝つのは無理だった。
――でも、やっぱり勝ちたいんだよね
勝ちたい自分とチームに貢献すべきとする自分が、頭の中でにらめっこする。勝ちたい理由は、やっぱり勇也に認められたいのが一番だった。
練習で話をすることはあっても、勇也が私を特別視していないのはわかっている。たぶん、勇也にしたらよくいる陸上女子の一人ぐらいの認識しかないだろう。
だからこそ、最後の大会は活躍して勇也の気を引きたかった。幼稚な発想だと言われるとしても、走る以外に取り柄のない私には、その方法しかすがるものがなかった。
――なんて返事しよう
送られてきたメッセージを読み返しながら、気持ちのこもらない言葉たちを頭に並べたてていく。きっと美由希は私の返事を待ってるだろうから、既読無視はさすがにやるわけにはいかなかった。
気づくと流れていく時間に焦りながら、とりあえずの返事を急いで送る。
今の私は、もうまともに美由希と向かい合うことすらできないほど、自分がどうするべきかわからなくなっていた。