「お兄ちゃんっ!」

 試合を終えてエリゼのところへ戻ると、ものすごい勢いで抱きつかれた。
 受け止めきれなくて、そのまま一緒に倒れてしまう。

「いてっ」
「わっ、わっ。ご、ごめんなさい……お兄ちゃん。大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど……どいてほしい。重いぞ」

 エリゼが俺の上に乗っていた。
 無理にどかすことは可能だけど、怪我をさせてしまうかもしれない。

「むぅ……私、重くなんてないです」

 エリゼは妙なところに怒りながら、俺の上からどいた。

「まあいいです。それよりも、おめでとうございます!」
「ありがとな。エリゼのおかげだ」
「え? 私、なにもしていませんよ?」
「大きな声で応援してくれただろう? おかげで、やる気が出た」
「えへへ……お兄ちゃんの役に立てたならよかったです」

 自分が役に立てたと知り、エリゼはうれしそうだ。

 さっきは怒っていたのだけど、すぐ笑顔になる。
 そうやって色々な表情を見せてくれるところが、エリゼのかわいいところだ。

「ピー!」

 どこかを飛んでいたニーアが戻ってきて、俺の肩に止まる。
 そして、勝利を祝福するように翼を広げて鳴いた。

「私が負けるなんて……」
「落ち着いて、ミリア。こんなのは、その……そう、まぐれよ、まぐれ。万に一の可能性が起きて、たまたまレンが勝っただけよ」

 一方、ミリアは落ち込み、アラムが励ましていた。

「……しかし、レンは本当に魔法を使えるのだな。意外とかっこいいかも。それに、今の一撃……これはこれで悪くない、はぁはぁ」
「えっ」

 なぜか、ミリアが俺に熱い視線を送ってくる。

 ……うん。
 見なかったことにしよう。

「なにはともあれ、第一関門は突破だな」

 これで合格になったわけではないけれど、一歩、目標に近づいた。

 この時代の魔法は衰退しているけど……
 それでも、まだまだ俺の知らないことは多い。
 エレニウム魔法学院に入学できれば、さらに色々なことを学ぶことができるだろう。

 そうして得た力は、魔王を倒すために。
 自己満足のためじゃなくて、大事な人を守るために。

「お兄ちゃん、次は私の試合ですよ。応援してくださいね」
「え? なんでエリゼが試合を?」
「忘れたんですか? 新入生候補のために、在学生も試合をして、その力をアピールするんですよ」
「……ああ、そういえば」

 そんな内容があったような気がした。

 その試合は優秀な生徒でないと選ばれないと聞く。
 妹が選ばれて、兄としては鼻が高い。

「もちろん応援する。がんばれ」
「はいっ、がんばります!」

 エリゼが小さな拳をぐっと握りしめた。

「では、これより在校生の試合を行う。エリゼ・ストライン、及び、ナナ・ハルド。共に前へ!」

 ちょうどいいタイミングで試合が始まるようだ。

「いってきますね、お兄ちゃん」
「気をつけて」
「できれば、もっと違う言葉がほしいです」
「えっと……がんばれ」
「もう一声!」
「エリゼなら絶対に勝てる」
「もうちょっと!」
「俺がついているからな」
「はいっ! お兄ちゃんの応援があれば、完璧です! 絶対に負けないから、見ていてくださいね。それだけで、私はどこまでもがんばることができますから」

 エリゼはにっこりと笑い、広場に移動した。

「両者、構え」

 エリゼの相手は背が高く、凛とした顔つきをしていた。
 相対的に見ると、エリゼの方が2~3歳くらい下に見えてしまう。

 ……こんなことを口にしたら絶対に拗ねるから、心の中で思うだけにしておくが。

「始め!」

 審判の合図で、二人が同時に動いた。