あれから1週間が経った。

 常時、魔力が消費されるというのはなかなか大変だ。
 体を動かし続けているようなもので、疲労はとても大きい。

 みんな、最初は悲鳴をあげていたけど……
 メルが妙なご褒美を提示したことで、なぜかやる気を出してしまった。

 悲鳴をあげながらも、誰一人として諦めるようなことはしない。
 がんばってがんばってがんばり続けて、無事、最初の1週間を乗り切ることができた。

 まずは一段落、といったところか。



――――――――――

 放課後。
 以前と同じ空き教室に集合する。

「ふぅ……1週間経ったけれど、なかなか慣れないわね、これ」

 肩こりに悩まされているような感じで、アリーシャがぐるぐると腕を回した。
 慣れないと言っておきながら、だいぶ慣れたように見える。
 少なくとも、初日に見えた濃い疲労感はもう見えない。

「私はだいぶ慣れましたよ!」

 ぴょんぴょんとその場でジャンプをしてみせて、元気なことをアピールするエリゼ。
 ちらちらとこちらを見ている。
 褒めてほしいのかな?

「偉い偉い」
「えへへ~」

 頭をなでてやると、エリゼがにへらと笑う。
 うん。
 俺の妹、かわいい。

「前々から思ってたんだけど、レンって妹には甘いわよね」
「え、そうか?」
「そうですわ。わたくし、それくらい甘やかされたことないのだけど」
「シャルロッテは甘やかすような対象じゃないと思うんだけど……」
「なによ。いいじゃない、わたくしも甘やかしなさいよ」

 それならばと、シャルロッテの頭を撫でてみる。

「ちょっと、子供扱いしないでくれる?」
「理不尽だろ」
「子供扱いじゃなくて、甘やかしてほしいの。ちやほやしてほしいの。そこら辺、勘違いしないでくれるかしら?」

 わがまますぎる。
 というか、両者の違いがわからない。
 子供扱いも甘やかすのも、似たようなものだと思うのだけど。

「はふぅ……最初は無理だと思ってましたけど、な、なんとかなりましたぁ」

 多少ふらふらしているものの、フィアも無事に1週間を乗り切ることができたらしい。
 筋肉痛みたいに、体がぷるぷると震えているけれど……
 まあ、それは愛嬌ということで。

「それじゃあ、訓練の成果を確認してみるか」

 1週間、呪いの制限を受けて生活をするだけ。
 普通に考えると、なんの嫌がらせだと思う。
 事実、みんなも効果が本当にあるのか、いまいち実感できていないみたいだ。

 まずは訓練が無事に進んでいることを実感してもらいたい。
 そうすることで、今後のモチベーションを得てほしい。
 そのために、成果を確認する必要があった。

 一度、教室を後にして……
 あらかじめ使用許可を得ておいた訓練場へ移動する。
 それほど広くはないが、簡単な魔法を使う分ならなにも問題はない。

「じゃあ、一旦、呪いを解除するぞ」
「え、一旦?」

 アリーシャが顔を引きつらせた。

「もしかして……この呪いは、今後も?」
「もちろん。1週間でそれなりに基礎魔力が上昇したと思うけど、まだまだ足りないし、成長の余地があるからな。しばらくは、ずっと呪いと付き合ってもらうぞ」
「やられたわ……1週間だけかと思っていたわ」

 アリーシャがうなだれた。
 いつも落ち着いているアリーシャがこうなのだから……

「これは、なかなか大変なことになりそうね……」
「……これからもずっとなんて、私、やっていけるのでしょうか?」
「あうあう……が、がんばりたいですけど、でも……」
「めんどうね。もっと、ぱーっと簡単に強くなれる方法はないのかしら?」

 みんなもげんなりとした顔をしていた。
 ……一部、微妙にニュアンスが違う顔をしている者もいたが、まあ、それは気にしないでおく。

「今は、これが一番良い方法なんだ。俺を信じてくれないか?」
「本当なんですか? お兄ちゃん」
「ちゃんと魔力が上昇している、ってことを実感してくれれば、俺の言っていることも理解できるさ。というわけで、エリゼ。なんでもいいから、適当に魔法を使ってみるといい」

 部屋の中央に魔法人形を設置した。

「なんでもいい、と言われても……」
「なら、初級魔法を全力で」
「えっと……はい、わかりました」

 その行動の意味はわからないけれど、俺が言うのならば……
 というような感じでエリゼが頷いた。

 信頼されているのかもしれないが、エリゼは俺の言うことならなんでも聞くな。
 もうちょっと、自分で考えるようにしてほしいというか、依存しないでほしいというか……
 でもでも、エリゼが離れることは寂しいというか……
 うーん、複雑な兄心。

「いきます!」

 エリゼが魔法人形に手の平を向けた。
 魔力を収束させて、発動のトリガーとなるキーワードを唱える。

「火炎槍<ファイアランス>!」

 炎の槍が魔法人形を討つ。
 荒れ狂う紅蓮の衝撃に、魔法人形がミシミシと悲鳴を上げた。

 ややあって……
 『255』という数字がぽんっ、と表示された。

「ふぇ……?」

 なにかの間違いでは? という感じで、エリゼがぽかんとした。
 でも、間違いなんかじゃない。
 以前、100以下の数値を出すのが限界だったエリゼだけど……
 今では倍以上の数値を叩き出すほどの力を手に入れたのだ。

「と、いうわけ」

 ここは、ちょっとくらい自慢げになってもいいよな。
 そんなことを思い、ドヤ顔をしてみせた。

「すっ……」
「す?」
「すごいすごいすごいすごーーーい、ですぅっ!!!!!」
「おおう!?」

 エリゼがものすごい勢いで詰め寄ってきた。

「私の魔力がこんなにアップしているなんて……正直、これどうなのかな、なんて思ってましたけど、私が間違っていました! さすがお兄ちゃんです! こんなことができるようになんて、本当にすごいです! お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ♪」

 最後はなぜか甘えてきた。
 とりあえず、頭を撫でておく。

「ねえ、わたくしもちょっと試し打ちしてもいいかしら?」
「あたしもしてみたいわね」
「わ、わたしも……」
「私もやったいわ」

 みんな、途端にやる気を出した。
 さっきまでのげんなりとした様子は欠片も見えない。

「うんうん、うまいじゃないか。いい感じにみんなのメンタルをコントロールしているね。よっ、さすが賢者」
「茶化すな」
「あいたっ」

 メルを小突きつつ……
 みんなの面倒を見るのだった。

 この調子なら、訓練は順調に進み、問題なく完了しそうだ。
 ただ、それを確実にするために、やらなくてはいけないことがある。