シャルロッテ曰く……

 今夜は俺と一緒に寝て、一気にしとめてしまいなさい。
 ……と、クラリッサさんに言われたらしい。

 一緒に寝ろというのは、つまり……そういうことなのだろうけど。
 ただ、シャルロッテの頭はまだお子様だったらしく、普通に一緒に寝るものと考えていたらしい。

 追い返して、クラリッサさんに見つかりでもすれば、さらに面倒なことになりそうだ。
 なので、仕方なくシャルロッテと一緒に寝ることに。

「……」
「……」

 すでに部屋の明かりは消している。
 唯一の明かりは、カーテンの隙間から差し込む月明かりだけ。

 薄暗い部屋の中、俺とシャルロッテは一緒に寝てる。
 横に並んで、互いに天井を向いているのだけど……
 妙な雰囲気が漂っていて、すぐに眠ることができない。

 それはシャルロッテも同じらしく、時折、もぞもぞと動いていた。

「ねえ」

 そっと声がかけられる。

「うん?」
「まだ起きている?」
「こうして返事をしているんだから、起きているよ」
「それもそうですわね」

 シャルロッテがくるっと回転してこちらを向いた。

 同じベッドで一緒に寝ているパジャマ姿の女の子……
 しかも、性格は色々と問題があるけれど、シャルロッテは文句なしの美少女……

 きつい。
 色々ときつい。

 心臓がバクバクとしてしまう。
 こひゅー、とか妙な息が漏れてしまう。

 なんて情けない。
 でも、仕方ないだろう?
 前世も含めて、恋愛経験なんてゼロなんだ。

 少しは、そういう方面も勉強した方がいいのかな?
 でも、しようと思ってできることではないし……
 ああもうっ、けっこう混乱しているな、俺!

「少し聞きたいのですが……」
「な、なに?」
「レンは、どうやってあれほどの力を手に入れたのですか?」

 シャルロッテがじっとこちらを見る。
 俺の一語一句、絶対に聞き逃さないというような姿勢だ。

「男性なのに魔法が使えるし、やたら魔力量が大きいし、闇属性魔法まで使えるし……色々ととんでもないところはあると思っていましたが、まさか、母様にまで勝ってしまうなんて」
「あー、それは……」
「でも、調子に乗ったらいけませんわ。わたくしも、以前よりも、もっともっと強くなっていますわ。魔法大会では負けたけれど、あれは勝負の運。今度やれば、絶対にわたくしが勝ちますわ。ふふんっ!」

 一緒のベッドに寝ているというのに、まったく色気のない会話だ。
 これこそ、シャルロッテクオリティといえる。

「それで、レンはどうやってそこまでの力を手に入れたのかしら?」
「あー……」

 色々と追求されるのが面倒なので、一瞬、話してしまおうか? という気持ちになってしまう。
 しかし、過去から転生してきました、なんて話は信じてもらえないだろうし……

「努力と根性で?」

 やばい。
 自分で言っておいて疑問系になってしまった。

 こんな答えじゃ納得しないだろうな。
 恐る恐るシャルロッテを見ると。

「なるほど! そういうことなら納得ですわ!」

 ものすごく瞳をキラキラと輝かせていた。

「才能がないと強くなれないとかいうアホもいますが、それ以前に、きちんとした修練が必要ですものね! それをずっとずっとずぅうううううっと繰り返す! それが一番大事なのですわ!」
「えっと……?」
「きっと、レンは小さい頃から修練を重ねてきたのね。毎日毎日、勉強をしてきたのね。そうやって、今の力を手に入れたのね」

 意外というか、そうでもないというべきか……
 シャルロッテは脳筋だったらしい。

 なんでも努力と根性で解決できると思っていたらしく、俺の話をあっさりと受け入れてしまう。
 それでいいのか? と思わないでもないが、納得してくれたのならそれでよしとする。

「もう一つ、質問いいかしら?」
「どうぞ」
「レンは強くなってどうしたいの?」
「それは……」

 魔王を倒して、自身が最強であることを証明する。
 それが前世からの目的だったのだけど……

 今は、少し違う。

 自身が最強であるかどうか。
 それは、前世から続く目標で、己の存在意義の証明に他ならない。
 簡単に変わることはない。

 ただ、それだけじゃなくて……

 大事な人を守りたいという想いがある。
 父さん、母さん、アラム姉さん、エリゼ。
 アリーシャ、フィア……それに、シャルロッテも。

 あとは、たくさんの優しい人達。
 失いたくないと思う。
 理不尽に奪われたくないと願う。

 だから俺は……

「間違えないため……かな」
「間違えない?」

 胸の中の思いを言葉にする。

「俺……昔というか、前に間違えたことがあるんだ。その時は、ただ自分の力を試したくて、強くなることに目的なんかなかった。力を試すことだけを目的にしてて、周りをぜんぜん見ていなかった。それで……ちょっと勝手なことをして、周りに迷惑をかけたんだ」

 俺は自分のことしか考えていなくて……
 賢者、英雄と呼ばれていた俺がいなくなればどうなるか?
 そのことを考えることなく、転生した。

 たぶん、思い切り迷惑をかけたと思う。
 そのことを最近になって後悔するようになった。

 色々な人と触れて、一緒の時間を過ごすうちに、思うようになったんだ。
 もしも身近な人が突然いなくなったら、どんな思いをするだろうか? って。

 そのことを考えた時、俺は過ちを犯していたことを自覚した。

「なんていうか……力を持つ者には責任があると思うんだ。ノブレス・オブリージュと似ているような感じで……力を持つ者が果たさないといけない義務があると思うんだ。もちろん、そんな法律はないし、明確にされていないんだけど……でも、あるんだよ」
「……」
「以前の俺はそのことに気づいていなくて、好き勝手してたけど……今は、そんなことはやめようと思ったんだ。ちゃんと周りを見て、一人じゃないことを自覚して……きちんと歩いていこうと思ったんだ」
「それは、自分で考えついた答えなのかしら?」
「まさか。俺一人でこんなことを考えたのなら、失敗なんかしてないさ。エリゼやアリーシャ。それにフィア、シャルロッテも。それに父さん母さん、それにアラム姉さん。その他、大勢……たくさんの人と触れ合ってきた。表面だけをなぞるような交流じゃなくて、同じ時間を過ごして、思い出を積み重ねることで……深い交流を重ねることで、考えが変わったんだと思う。だから、なんていうか……」

 胸の中の言葉を思いつくまま吐き出しているので、うまく言葉にならない。
 支離滅裂だ。

 それでも。
 想いを、思いを紡ぐ。

「俺は、みんなのために戦いたい。それが強くなる目的かな」
「……そう」

 俺の考えを理解したというように、シャルロッテはにっこりと笑う。
 それはとても綺麗な笑みだった。
 思わずドキドキしてしまう。

「ありがとう。レンのこと、今までよりも理解できた気がしますわ」
「今まで以上に理解して、どうするんだ?」
「さあ……どうしようかしら?」

 いたずらっ子のようにシャルロッテがニヤリとした。
 それから、枕に頭を乗せて仰向けになる。

「そろそろ寝ましょう。夜更かしは美容の天敵よ」
「あ、ああ……」
「おやすみなさい、レン」
「……おやすみ、シャルロッテ」

 色々と思うところはあるものの……
 今は目を閉じて、安らぎに身を任せることにした。