その頃、雫はもしかして、自分をあの男が送ってくれたんじゃないかと微かな期待を胸に、連絡を取っていた。
しかし、その期待は無残にも打ち砕かれ、酷い言葉を浴びせられた。

そんな時バーテンダーから連絡が入った。

「お連れ様が寝込んでしまわれて、迎えをお願い出来ますか」

「すぐ行きます」

俺は雫を迎えに行った。

「雫、帰るよ」

俺は会計を済ませて、雫を抱き抱え、車でアパートへ向かった。
いつものように雫をベッドに寝かせて、「おやすみ、雫」と声をかけて立ち去ろうとした
時だった。

「拓海? 拓海だよね」

俺の背中に雫が声をかけた。

「お願い、一人にしないで」

雫は俺の背中に抱きついて来た。

「拓海、抱いて」

雫は俺の前に回り込み、俺にキスをした。

俺は理性を保つ事が出来ず、雫を抱いてしまった。

雫は俺に抱かれながら、拓海、拓海と男の名前を呼んでいた。

俺は雫を抱いた。
頭ではダメとわかっていても、気持ちが抑えられなかった。
雫は俺を別れた男と思っている。
ずっと「拓海、拓海」と呼んでいた。

雫の寝顔を見て俺は愛おしさが溢れて来た。
しかし、雫が愛しているのは俺じゃない。
でも、雫の気持ちが安らかなら、俺も幸せになれる。