俺は彼女のことを、秘書に調べさせた。
名前、雨宮雫、年齢四十一歳、独身。

「社長、バーにいた男性とは別れたとの情報を得ています」

「そうか、いきなりアパートへ押しかけるのはまずいよな」

「それではストーカーになってしまいます、バーで知り合うのが自然ではないでしょうか」

「そうか、しかし、別れた男と来たバーに来るのか?」

「しばらくすればまた現れます」

秘書の言う通り、雫はバーにやって来た。
来るなり、酒を頼み、相当のペースで飲み始めた。
俺は声をかけるタイミングを失い、ただ見守るだけだった。
雫はあっと言う間に酔いが周り、足元が危ない状態だった。

「危ない」

俺は雫を支えて、アパートへ送り届けた。
俺にもたれ掛かって来た雫を抱き抱えた。

「やべえ、止められなくなる」

俺は自分の気持ちをぐっと堪えた。

酔った雫を抱いても、虚しくなるだけだ。

俺はしばらく雫に声をかけられなかった。
何故なら、雫は泣いていた。
泣いて、泣き疲れて、酔い潰れて、俺がアパートへ送り届ける。
そんな日々が続いた。

酔った雫を抱きしめて、何度押し倒したいと思ったことか。
雫は俺の存在に気づいていない。
まだ、あの男を忘れていない。

俺の存在に気づいてくれる日は来るのだろうか。