峻助はすくすくと成長した。

五歳の誕生日、峻助は思いがけない事を口にした。

「パパの会社を見たい」

「じゃあ、今日ママに連れてきてもらえ」

「ご迷惑じゃないですか?」

雫はいつも俺に気遣いを見せてくれる。

「大丈夫だ、峻助が俺の仕事に興味を持つなんて、まだ五歳だぞ、嬉しいよ」

そして峻助は雫に連れられて、冴木コーポレーションへやってきた。

「こんにちは、いつも主人がお世話になっております」

「お待ちしておりました、どうぞこちらへ、峻助坊っちゃまもお元気で何よりです」

秘書の山元さんが対応してくれた。

「ママ、パパの会社大きいね」

峻助は目を輝かせて、高い天井を見上げた。

「雫」

その時私の名前を呼ぶ声に懐かしさを覚えた。

振り返るとそこには琉が立っていた。

「琉」

五年振りの再会である。

琉は峻助にニッコリ微笑んで「名前を教えてくれ」と声をかけた。

「冴木峻助です」

峻助は大きな声で答えた。

琉は峻助に近づき「えらいな、自分の名前を言えて」と峻助の頭を撫でた。

峻助は琉に尋ねた。

「おじさんの名前は?」

「俺は藤ヶ谷琉だ、藤ヶ谷不動産の社長だ」

「社長さん?じゃあパパと一緒だね」

「パパの名前を教えてくれないか」

「冴木峻、冴木コーポレーション社長だよ、僕大人になったら冴木コーポレーションの社長になるんだ」

琉はニッコリ微笑んでじっと峻助を見つめた。

我が子に愛情を注いている父親の顔だった。