「社長、冴木峻様がお見えです」

「通してくれ」

「かしこまりました」

琉は峻を社長室に迎えた。

「何かご用でしょうか?」

「雫を迎えに来た」

「この前雫自身の意思でそちらに帰ったはずですが?」

「とぼけるのもいい加減にしろ」

「もし、そちらの元にいないのなら、もう諦めた方がいいのでは?」

「そうなる様に仕向けたのはそっちだろう」

琉は不敵な笑みを浮かべた。

「変な言いがかりは迷惑だ、お客様のお帰りだ」

峻は握り拳を作り、怒りを露わにした。
だが、証拠があるわけでもなく、引き下がるしか術は無かった。

峻は途方に暮れていた。
スマホを置いて行ったので私と連絡が取れない。

「雫、どうして、俺の言う事を信じられない」

峻はどうしたら私に会えるか考えた、そこで思いついたのが、産婦人科の検診だった。

「確か今度の検診は今週の金曜日だったな」

その頃私は、琉のマンションにお世話になっていた。

「雫、今日冴木峻が会社に来たよ」

「えっ?」

「相当焦っていたよ」

ふっと鼻で笑って答えた。

峻、ごめんなさい、ごめんなさい。
私は心の中で何度も繰り返した。

「雫、明日は帰りが遅くなる、大人しく待っていてくれ」

「明日は産婦人科の検診があるので、出かけて来ます」

「わかった」

なんかちょっと寂しかった。
もうすこし興味を示してくれてもいいのにって思った。
峻は自分の子供じゃないのに、チビちゃんに興味を示して、忙しい中検診に一緒について来てくれた。

「峻」

私は心の中で何度も峻の名前を呼んだ。