「雫、ただいま」

峻がいつのように帰って来て、私を抱き寄せた。

「お帰りなさい」

「変わった事はなかったか?チビ助は元気だったか?」

「はい」

いつものように峻に笑顔を向ける事は出来なかった。
そんな私の様子に違和感を感じて、峻は私の顔を覗き込んだ。

「どうした?何かあったのか」

私は何からどう話せばいいか迷っていた。
琉の話を鵜呑みにして、峻に問いただす事は、果たして正解なのか。

「雫?何かあるなら言ってくれ」

峻は私の手を握りしめ、答えを待った。
私は静かに話し始めた。

「今日、琉が訪ねて来ました」

「藤ヶ谷琉が?」

「迎えに来たと言われたので、峻と結婚した事を伝えました」

峻は私の話に耳を傾けていた。

「チビちゃんは自分の子供だから引き取りたいと言っていました、でも峻が自分の子供として引き受けると言ってくれていると伝えると、私は利用されているだけだと、峻は自分の子供を残せないから、跡取りが欲しいために私に近づいたと言っていました」

峻は黙ったまま俯いていた。

「確かに私達は契約の関係ですけど、峻はいつも私を気遣ってくれて、チビちゃんの事も心配してくれて、私が生きていけるのも峻のおかげと感謝しています、契約期間も無期限だと言って頂いて、私はチビちゃんを安心して出産出来ると信じて疑う事はありませんでした、でももし琉の言う事が本当だとしたら、私はチビちゃんを出産した後チビちゃんを取り上げられて、追い出されるんですか?もう峻の側には居られないんですか?」

落ち着いて話を切り出したつもりだったのに、涙が溢れて止まらなくなった。

黙って話を聞いていた峻は、泣いている私を引き寄せ抱きしめた。