前述の通り、旭の家は少し特殊だ。
古くからこの町の守頭とされる、魔術師の家系なのである。
旭はここの長男だった。
冷たい廊下を進み、台所の電気を付ける。
ほとんど使われていない流し台が、ピカピカと輝いた。
中学生の時まではここに書き置きとお金が残されていた。しかしアルバイトを始め、まかないが出るようになってからはなくなっている。
本当に自分はいないものなのだな、と旭はしみじみ実感しつつ、電子レンジにまかないを入れてあたためボタンを押した。
長男だった旭の立場が変わったのは、実の母親が死んでからだ。
記憶の中の両親は、どちらかといえば不仲だった。
父は母とほとんど口を利かず、目すら合わせようとしなかった。
母はそんな父にいつも遠慮しているようで、家の隅で息を潜めて生活していた。
気を遣いすぎたのだろうか。
旭が小学4年生の頃、母は病死してしまう。
そして悲しむ間もなく、旭の目の前に、父の妾とその息子が現れた。
後に知ったところによると、父と妾は大学の同級生であり、その頃からの恋人同士だったらしい。
しかし父は家同士が決めた相手と半ば無理矢理結婚させられる。
深く反発した父は、母という存在がありながら、恋人とずっと繋がっていたのだ。