街灯の無機質な明かりが照らす夜道は、色がなくて寒々しい。
見上げると小さな星屑がちらちら瞬いていた。
長い坂道を下り、一旦大通りへ。
小脇に抱えた鞄が仄かに温かいのは、有り合わせの材料で作ったまかないが入っているからである。
お金が稼げるようになった。料理ができるようになった。
少しずつではあるが、自活していくための力がついている。
早く時間が流れて、高校を卒業したい。
就職して、家から出ていこう。この町からも。
あと3年だ。3年我慢すれば。
大通りから脇道に入り、小さな木製の橋を渡る。
蒼い夜闇に菜の花の黄色が沈んでいる。
流れる川に十六夜が揺らいでいた。
田んぼ道を抜け、再び坂道へ。
その坂道を登りきったところにある、古いお屋敷が旭の家だ。
閉ざされた門を開けると、家はどこもかしこも真っ暗だった。
どうやら家の人たちは皆、外出しているらしい。
恐らく夕食にでも出掛けたのだろう。
置いていかれるのはいつものことだ。
特別気にしないようにしつつ、旭は鍵を開けて家に入った。