しかし噂によれば、とても美しい容姿だったそうである。
眉目秀麗、成績優秀。
絵に描いたような優等生だ。
兄みたいだと、旭の表情が曇る。
「早く来るといいけど」
渉が2つ目のチョコを手に取った。
その手を容赦なく叩いた瑠璃は、自分も1つ取って口に入れた。
皆小腹が空いているのだ。
「そうだね」
正直仲良くなれる気がしないな、などと思いながら旭もチョコをつまんだ。



旭の家はかなり特殊だ。
「お疲れ様でした」
店の奥で電卓を叩いている店長に頭を下げると、店長が疲れた顔で手を振ってくれた。
中学を卒業してすぐに始めたアルバイト。
家と学校の中間地点にあるこのお店は、カフェ風の定食屋だ。
店長と旭と、もう1人の従業員で切り盛りしている小さな店である。
家に帰るのが憂鬱な旭は、平日休日構わずほとんどの時間をアルバイトに充てていた。
あとは詩織とのデート。
そういえば、この前初めて出た給料で、髪飾りを買ってプレゼントした。
あんなに喜んでくれていたのに、全部嘘だったのだ。虚しい。
「バイト、もっと増やそ」
誰にともなく呟く。