「なにが?謝るのは百瀬さんでしょ。それより私、旭に聞きたいことがあったんだ」
「ああ、花守さんのこと?」
渉がお菓子の袋を開けながら聞き返す。
「そう。ところで渉、それ、私が旭にあげたのだけど」
「ああ、気にしないで」
「それはあんたじゃなくて旭のセリフよ」
冷ややかに怒る瑠璃を、旭はどうどうと宥めた。
懐かしいやり取りだ。
「それで、その花守さんがどうしたの?」
「やだ旭ったら。入学式の眠り姫って、今もっぱらの噂じゃない。お隣の席でしょ?どんな子だったの?」
瑠璃の言う花守さんとは、花守雛菊のことである。
彼女は旭の隣の席に座るはずのクラスメイトだ。
入試の成績がトップであった雛菊は、入学式でも新入生代表として総辞を行うはずだったのだが。
「いやぁ、舞台上で倒れちゃうとはね」
渉がチョコを噛りながら苦笑いする。
そう、彼女は壇上に立ち、一礼をして顔を上げたところで、ぱたりと倒れてしまったのだ。
担架に乗せられ、顔面蒼白で体育館から運び出されて以降、登校してきていない。
詩織と同じクラスになれたことを喜んでいた旭は、全く雛菊のことを覚えていない。