「はぁ、じゃないわ。まともに答えられないわけ？日本語で話してもらって」
「あの……」
おずおずと雛菊が手を上げる。
全員の注目が集まる中、雛菊は不思議そうに眉を寄せ、旭の前に出た。
「失礼ですが、百瀬さんと名取くんが付き合っていたのは、いつからいつのことでしょう」
「今年のバレンタインから、1週間ちょっと前までだけど」
「私が名取くんと出会ったのは昨日のことです。お付き合いを始めたのが本日ですから……。不貞行為には値しないのではないでしょうか」
場が静まり返った。
教室ごと水底へ沈んでしまったような、深い深い沈黙が満ちる。
詩織ははくはくと口を動かした。
「そんなっ！そんな、1日で付き合うとか！」
「あり得ないことではないでしょう。昨今では交際0日婚、などという言葉もあるくらいですし」
「ぶっ！」
渉が吹き出した。慌てて口を押さえているが、もう遅い。
詩織は焦りと動揺を隠せず、次第に泣きそうになっていった。
「でも、でも！」
「聞いたお話しですが」
雛菊の顔が一転、どこか哀れむようなものになる。