一試合終え、体育館から出て水を飲んでいると、真っ黄色の歓声が上がった。
「すごいね、旭のカノジョ」
隣の渉がからかい混じりに言う。
女子は校庭でソフトボールをしており、雛菊がちょうどホームランを決めたところだった。
すごい、さすが花守さん、かっこいい。
誰もが称賛する中、雛菊は澄ました顔で汗を拭いている。
「ああ……」
昨日は銃を持って大人の男とやり合っていたのだ。
バットを振り回すくらいなんでもないだろう。
しかも飛んでくるのは斧ではなく、柔らかいボールなのだから。
「本当に付き合ってるの?君ら」
「そーみたい」
「みたいって」
気持ちが伴わない関係だから実感がないのだ。
旭は眉間を揉んだ。
だんだんと眠気が強くなってきていた。
旭と雛菊が交際しているという情報は、瞬く間に広がった。
昼休みの一件を聞いていた周りの人々が噂して回ったようである。
珍獣でも見るような視線が旭と雛菊に注がれた。
時折聞こえてくるのは、なんで、という言葉と、花守さんの一目惚れらしい、という囁き。
ぐったりする旭の前に詩織が現れたのは、ホームルームが終わってすぐ。渉が皆で帰ろうと提案するのを、雛菊が丁重に断っている時のことだった。