渉と瑠璃の目が点になった。
2人の視線が旭に集まり、次に雛菊に移った。そして再び旭の元へ帰ると、渉が唸った。
「うぉっ」
大型犬が不意に出す低い鳴き声みたいだった。
「え?急に?」
瑠璃は頭を押さえつつ、なんとか現実についてきている。
「はい」
「旭と花守さん、接点あったの?」
「えっ!?」
旭はぎくりと固まった。
まさか本当のことを言うわけにもいかない。一目惚れ、などと言えるキャラでもない。
どうしよう。
恐る恐る雛菊を見下ろすと、彼女は頬を赤らめて恥じらっていた。
「少し前、私が暴漢に襲われているところを、名取くんに助けていただいて。こうしてまた再会できたことに運命を感じました。要は……」
噓が上手すぎる。
旭はぎょっとした。
助けられたのは旭の方だ。
真逆のエピソードをでっち上げた雛菊は、とびきり甘く笑った。
「わたくしの一目惚れですね」
さすが優等生。
頭の回転も速い上に、演技力まで抜群だ。
ぽとり、渉の手からスナック菓子が落ちる。
瑠璃は驚きつつもしみじみ頷いていた。

全く休憩した気分にならないまま、昼休みは終わった。
午後の授業は体育からである。