「名取くんのことは、私が責任をもって、必ず幸せに致します」
なんだ、この授かり婚カップルのプロポーズみたいなセリフは。



教室へ戻ると、渉と瑠璃が話し込んでいた。
瑠璃は他のクラスだが、休み時間にはよく遊びに来る。
2人は旭に気づくと口々にまくしたてた。
「遅かったね」
「待ってたのに」
「昼ごはん食べちゃったよ」
「どこ行ってたの?」
どうしてか、この風景がとても平和で尊いものに見える。
旭は立ち尽くした。
現実世界の輪から弾かれてしまった気がして。
それでも2人は温かく迎え入れてくれる。
こんな日々がずっと続けば良いと願った。
そんな旭の後ろから、雛菊が歩み出た。
「わたくしが旭くんを捕まえてしまいました。申し訳ありません」
2人が静かになる。
瑠璃などは特に不思議そうに、雛菊をまじまじ見つめた。
「花守さんと一緒だったの?」
渉も珍しがっている。
「ああ、うん……」
旭は陽炎のような覚束ない返事をした。
昨日の晩から夢を見ている気分なのだから仕方ない。
どうにも釈然としない旭の態度に、だんだんと2人が不信感を募らせる。
しかしそれがはっきりと形を取る前に、雛菊は宣言した。
「実はわたくしたち、お付き合いすることになりました」