「覚えとけよ!良い女はだいたい……」
「あれ?今日は旭も一緒?」
力説する友人を遮るように、廊下に面した窓が開く。
突如現れたもう1人の幼なじみは、片方の耳に髪をかけつつ、旭をまじまじと見つめた。
「やあ、瑠璃」
友人の背筋が伸びる。
「やあじゃないでしょ。渉、遅い。迎えにきたの」
「ごめーん」
友人ーー渉は軽い口調で片手を上げた。
旭と渉、そして瑠璃は、中学に入る前からの仲だ。
それぞれなんとなく疎遠になる時期もあったが、中学2年で同じクラスになってから3人でいることが増えた。
そして渉と瑠璃は恋人同士でもある。
渉にとって良い女の代表格である瑠璃は、なるほど、どちらかといえば狐顔だ。
余談だが、詩織も同じ中学だった。
「ところで旭、今日は珍しいね。百瀬さんは?」
「それが別れたんだって」
渉があっさり言うと、瑠璃は目を丸くした。
「なんで?昨日までは普通だったじゃん」
同じことを言うなぁ、と旭は3本目のナイフが背中に突き刺さるのを感じつつ、へらりと笑う。