そしてそれは魔物たちにとって、最上級のご馳走なのだそうだ。
前述した通り、吸血鬼は高位の魔物。力の強い者の血肉を取り込むことは、魔力強化の近道なのである。
「特に名取くんは、こんなにも濃密にわたくしの気配を漂わせているのですから。花守は鬼界ーー魔物の世界でも、4名家のひとつに数えられるほど、力の強い一族なんです。野良になったら、昨日みたいなチンピラに命を脅かされることになりますよ」
理不尽極まりない。
そして昨日の男はチンピラなのか。
あのレベルでチンピラならば、本物はどれだけ恐ろしいのだろう。
「あれ?それなら眷属であっても狙われるってことにならない?」
雛菊は自分の胸に手を当て、堂々と断言した。
「それはありません。さきに申し上げた通り、花守は鬼界の名家。その当主の眷属に手を出す愚か者はいませんよ」
旭の未来は確定した。
昨日のように死にかけるなどまっぴらだし、喰われる場面でなど想像しただけで悪寒が駆け巡る。
脱力しきった旭の手を、雛菊はそっと拾い上げ、両手で包み込んだ。