いや、雛菊は吸血鬼。普通の人間の数倍は丈夫だ。であればあれは、果たして死にかけていたのかどうか……。
「え？」
雛菊は顔を上げた。目を見開き、純粋な驚きと戸惑いを浮かべて。
「もしかして、気づいていらっしゃらないの？」
「なにが？」
「名取くん、貴方は、わたくしの眷属となったことで、命を長らえたのですよ」
眷属。
旭は首を傾げた。
聞き慣れない単語だ。
「はい、花守さん」
「なんでしょう」
「眷属ってなんですか？」
花守さんまでこてんと首を傾げた。
「ご存じないの？」
「あ、はい。ご存じないです」
雛菊はもっと不可解そうにしつつ、教えてくれた。
眷属。
吸血鬼が自らの血を分けて作り出す、従者のことである。
血を媒介に、眷属は吸血鬼の固有魔法を使えるようになり、吸血鬼は魔力を強めることができる。
魔物にとって、魔力は生命力にも等しい。
故に眷属を得ることは、吸血鬼にとって非常にめでたいことだそうだ。
ここで新たな問題が浮かび上がる。
吸血鬼は眷属を作るため、血を分けなくてはならない。
つまり、旭は雛菊から血をもらったということになる。
これについては、雛菊にとっても甚だ不本意なことだったらしい。