「君は一体何者なの?」
「私は」

「私は、吸血鬼」

「は?」
旭の口から間抜けた声が漏れる。
それもそのはず。
吸血鬼?
物語に出てくる、血を吸う化け物のこと?
思っていた回答と違い、旭は次第に焦り始めた。
旭は雛菊を、自分の家と同じ稼業の人間だと予想していたのだ。
つまり、魔術師であると。
現代社会に魔物はほとんどいないが、それでもゼロではない。
だから魔術師たちは己の土地を守るため、密かに魔物を狩っている。
旭の父や義兄もたまに仕事をしていた。
一晩悩み苦しんだ旭は、あの男は魔物で、彼女は魔物を処分しにきた魔術師と判断したのだ。
だから関わり合いにならないよう、昨日の話にならないよう、避けていたのに。
吸血鬼は高位の魔物だ。
「知りませんか?本当の悪魔は、人間のふりをして隣にいるものですよ」
雛菊は黙り込んだ旭を見て、悲しそうに目を伏せた。
「それでも気味悪いですよね」
「いや……」
違う、そうではない。
というより旭は、吸血鬼に対する印象まで感じられるほど、まだ頭が整理できていない。