「少々ずるは致しましたが」
「ずる?」
「はい。ちょっとその、屋上から名取くんの姿を探しまして、直接こちらに……」
「こちらに?」
屋上?直接?
なにを言っているのだ、この子は。
ますます怖くなってきた旭の前で、雛菊は恥じらうように両手を組み、もじもじと目をそらした。
「はい。屋上からこちらの校舎の前まで飛び降りてきました」
「……」
目が点になるとはこのこと。
旭は急に冷静になった。
上を見上げ、雛菊を見下ろし、再び上を見上げ、頭をかいた。
「屋上から、なんて?」
「飛び降りてきました」
耳まで赤くした雛菊は、次の瞬間はっとしたようにこちらを真っ直ぐ見た。
「大丈夫ですよ!誰にも見られないように致しましたから」
そこではない!
あまりのずれ方に、旭は愕然とする。
普通の人間はまず、屋上から飛び降りて無傷ではいられない。
だというのに雛菊は、髪ひとつ、制服ひとつ乱さず、呼吸すら自然なままそこにいた。
ただ走ってきただけの旭は、衝撃もあいまってぜえぜえ言っているというのに。
ごくり、唾を飲む。
旭は意を決して雛菊と向き合った。