鬼と花

「……どったの?」
「なにが」
「なんか、顔色が青いけど」
「ああ、うん……」
ふと前を見ると、帰っていく詩織が見えた。
いつも仲良くしている女の子たちと、笑いながら教室を出ていく。
一瞬目が合った気がしたが、すぐにそらされてしまった。
目敏くそれに気づいた友人が詰め寄ってくる。
「なに?百瀬となにかあったわけ?」
「あー……。うん」
正直今その話題は辛いのだが、隠してもすぐにばれるだろう。
旭は無理矢理笑った。
「なんか、別れることになった」
「えー!昨日まで普通だったじゃん」
「俺もそう思う」
「なんでなんで」
「んー?」
じわり。
不意に滲んだ涙を隠すため、旭は机に突っ伏す。ついでにさりげなく目元を袖に押し付けた。
「義兄が好きだったらしい」
「は?」
友人の声音が変わった。
「なんでそこで侑真さんが出てくるわけ?」
「さぁ」
「聞かなかったのかよ!」
舌打ちが飛ぶ。
「あのくそ女。やっぱ狸顔でボブヘアの女は信用ならねえ」
なんだその理屈は。
しんみりした気分だというのに笑いが込み上げてくる。
「そうなの?」
目元だけ上げると、友人は力強く頷いた。