眠り姫、花守雛菊。入学式から2週間、噂を超えて美しい。
しかし旭は別のことで驚いていた。
昨日の少女だ。
背中を斧で割かれ、旭と共に生死を彷徨った、あの。
「おはようございます」
背筋を真っ直ぐ伸ばし、雛菊は完璧な角度でお辞儀をした。
その途端、止まっていた時間が動き出した。
「おはよう」
「おはようございます」
「はよー」
挨拶が飛び交う。
顔を上げた雛菊は、固い表情でくるくる辺りを見渡した。
「あ!花守さーん!席ならこっちだよ!」
渉が大きく手を振る。
ぱちり。
雛菊の大きな目に旭は捕まった。
心の準備ができていない旭は、咄嗟に渉の影に隠れる。
一歩一歩、雛菊が近づいてくる。
逃げてしまいたいと思ったが、急にどこかへ行くのも不自然だ。
こういう時に限って誰も呼び出しに来ない。
いつもならば他のクラスの友人が、やれ教科書を貸せだの、ジャージを貸せだのとやってくるのに。
いっそ教師でも構わない。放送でもなんでも良いから職員室に呼んでほしい。……呼び出されるようなことはまだしていない。もっとグレておくのだった。