イイやつとはつまり、ちょっとアレなビデオのことで。
「逆に教えてくれよ!」
旭は嘆いた。
なんでもいいから現実逃避をしたかった。
「ちょ、どうした?本当に。いつもあんましこういう話には乗ってこねえじゃん」
「ちなみに俺のタイプは……」
「ちょっと旭クン、眠ろっか。じゃないとしょうもない性癖暴露することになるから!」
口を押さえつけられ、旭はそれ以上喋るのを辞めた。
確かに今日の自分はかなりおかしい。
恐怖と混乱と疲労で、頭の中が霞んでいる。
思えばそこまで飢えているわけではない。
「あーあ……」
「本当に大丈夫かよ」
「うー……」
がらり。
教室の扉が開く音がした。
この時間帯、扉の開閉は珍しいことではない。登校してくる生徒が1番多くなる時間なのだから。
しかしこの時は、誰もが吸い寄せられるように扉に目をやった。
そこには夜がいた。
闇を含んだ長い髪に、月明かりの如く白い肌。瞳は漣ひとつない湖のように静かで深く、唇は咲いたばかりの桜色。
教室にいる誰もが息を飲んだ。
それほどに美しく、神々しく、恐ろしかった。
「やっと来たね、眠り姫」
渉が面白そうに目を細める。