「……っ」
旭は奥歯を噛みしめた。強く強く、顎が痛むほどに。
こうでもしなくては、精神を保てない気がした。
恐ろしい夜はなかなか明けてくれない。
旭は膝を抱え、涙を流しながら朝を待った。



次の日の朝。
一睡も出来なかった旭は、いつもより早く家を出た。
疲労のせいだろうか、昨日より幾分か冷静になっている。
血だらけの服は新聞紙にくるんでゴミ袋に入れた。
幸いにも、今日は燃えるゴミの回収日だ。
ふわふわした足取りでリビングを通り過ぎる。
テレビの音と、上機嫌な話し声が漏れ聞こえた。
いつもなら気にならないが、今日はやたらと頭に響く。
「うるさ……」
呟いた声を拾う者は誰もいない。
しかし、数分後。
「あれ、母さん。扉が開かない」
「なに馬鹿なことやってんの。……あれ?本当に。ちょっと貴方ー!」
「古い家だからなっ。立て付けがっ!……!……お?」
3人はリビングから出られなくなってしまった。
30分ほどかけてようやく開けると、扉に植物のつるが絡みついていたという。
「なんだこれ」
「藤……?」
旭の父と義兄は険しい顔で扉を見上げた。