やはり誰かがいる。
振り向きかけた旭の頭から顎へ、凄まじい衝撃が走った。
そこで意識が飛んだ。
次に旭が見たのは、地面に黒々と広がるなにかだった。
鉄と表するにはあまりに生臭い。
流れていくその先に、オレンジ色のスニーカーがある。
「ま、女じゃねえけどいっか」
旭の耳を誰かの言葉が素通りしていく。
何を言っているのか、理解することは出来なかった。
旭は斧で右側頭部を吹き飛ばされていた。
こぼれかけた脳髄を見て、男は舌なめずりをする。
女ほどではないが、若い男の臓器だ。充分な栄養になる。
と。
「花守の統括地で、随分と勝手な真似をしてくれたわね」
路地を塞ぐ形で少女が現れた。
歳の頃は10代後半。華奢で小さな体つき。長い髪は艶やかで、肌は冬の月のように白い。そして瞳は彼岸花のような赤い色。
男は嘲笑を浮かべ、少女へ体を向ける。
「花守。協会の犬か」
犬、と恐らく不名誉なことを言われても、少女は無表情。
むしろ、知っているとは好都合だわ、と風鈴の音に似た声で言う。
そしておもむろに銃を構えた。