まかないを食べ終えた旭は、早々に風呂へ入り、ベッドに入った。
これでも自分は幸せだと思う。
境遇を知り、慰めてくれたり、怒ってくれたりする友人がいる。
アルバイト先の人間関係も良く、ほとんどなにも出来ない自分を根気よく育ててくれる。
それでも時折思うのだ。
このまま消えてしまいたい、と。
遠くから継母と義兄の話し声が聞こえた気がして、旭は布団に潜り込んだ。
早く、早く。
時間よ、流れろ。
そうしてどこかへ消えてしまえ。

こんなことを考えていたからだろうか。
今でも旭はあの出会いのことを、死神に導かれたものだと思っている。

その日も旭は、高校生が許されるぎりぎりの時間まで働いた。
夜10時過ぎ。
大都会ならいざ知らず、郊外であるこの町はしんと静まり返る。
歩く人は勿論、車の数も極端に減るのだ。
とぼとぼ歩く旭の頭上で、切れかけた街灯が点滅する。
暗転する直前、自分のもの以外にもう1つの影を見た気がして、旭は振り向いた。
当然誰もいない。
ほっとしつつ、また歩き出す。
きぃ。
金属が擦れる音を聞いて、旭は足を止めた。