「別れて欲しい」
急に告げられた言葉は、旭の呼吸を止めるのに充分な威力を持っていた。
「え?」
辛うじて聞き返すと、付き合って3ヶ月にも満たない彼女は、苛立ちを隠さず繰り返した。
「だ·か·ら!別れてって!」
こつこつこつ。
指先でテーブルを叩く音が、やけにうるさく聞こえる。
急にフラれることになった原因が思い当たらず、旭は慌てた。
「なにか……。俺、詩織ちゃんに、なにかしたかな?」
「んー。特にないけど。てか本当は、私侑真さんが好きなんだよね」
「へ?」
何故ここで義兄の名前が?
しかし今の旭にまともな思考力などあるはずもなく。
「旭くんといたら、侑真さんともお近づきになれるかなって思ったけど。でも全然じゃん?だからもういいかなって」
それじゃ、と詩織は去っていく。
振り返ることもなく。
残された旭は、昼休みの喧騒の中、呆然と座り込んだ。

「やっぱ部活しよかなー」
逆さまになった友人の顔が視界いっぱいに広がり、旭はぎょっとした。
気づけば放課後。
午後の授業のことはまったく覚えていない。
背中を大きく反らして伸びをしていた友人は、元の姿勢に戻ると、旭の机に頬杖をついた。