「へん! しん!」
 ……無。

 え? 変身ってもなにも怒らんぞ?
 なんだってばよ? この力。
 
『…ねん……少年』
 微かに頭の中でどこかからおっさんの声が聞こえる。
 あ、俺もおっさんの部類か。(34歳)

「なんだ? お前、さっきのやつか」
『そうだ、ミスターサンダーだ』

 どうやら俺の頭の中に、直接話しかけているようだ。
 こいつが脳内にいると思うだけで、イライラがMAXだ。

「で? 俺はどうなった?」
『単純に言えば、君は生き返った』
「んなことは見たらわかる。しかし、なんだこのマッチョゴリラ体形は?」
 自分で自分の厚い胸板に手をあてる。
 巨乳なみにおっぱいがでかくなってて草。

『それは君の基礎能力をあげた効果だ』
「つまり?」
『先ほど、クッソ寒い言葉などせずとも、君はもう既に能力を手に入れた』
 今ディスったよな、こいつ。

「じゃあ常に変身した状態か?」
『そうとは言えない。私は君に‟ミスターサンダーの2代目”を引き継いでほしい。その為の種をまいたに過ぎないのだ。あとは君の頑張り次第で能力は更に開花される』
 なにそれ? お勉強とか体育とかと、ほぼほぼ変わらなくね?
 今流行りの最初から‟俺TUEEE”で無双したかった……。

「ていうか、なんで俺がミスターサンダーとかいう、オワコンのヒーローを引き継ぐの?」
『それは私が初めて死者を出してしまったからだ』
 ああ、俺のことね。

『私はヒーローになったとき、決めていた。絶対に死者を出さないと……もしその時がくれば、誰かに自身の能力を与えようと』
 なにその上から目線。
 お前の能力なんて金になんねーよ。

「で、具体的になにをすればいい? 俺はヒキニートだ。先立つものなんてなにもない」
『……それは私は知らん。社会復帰しなさい』
 ぐはっ! ひきこもりに一番ダメージな言葉を。

『そして、人を救いなさい』
「誰を?」
『全員だ……君が救うべき対象を見つけたら、私の託した力で戦えば、普通の人間ぐらいならワンパンで倒せるだろう』
「人間ぐらいって……まさか、特撮のときみたいな怪人とかでんのかよ?」

『ではまたいずれ……』

「あんのクソ特撮! 逃げやがったな!」


 10分後、とりあえず、自室から出て、廊下に向かう。
 尿意を感じたためだ。

 便器に向かうと、みたことないようなミサイルが俺の股間に生えていた。
「ナニコレ?」
 どっか人様のものをパクったのかな……。
 俺は確か『デリンジャー』なみだったのに。

 排尿を終えると、リビングに向かう。

 
 そこには驚愕の光景が待っていた。

「親父! 母さん!」

 二人とも目を見開き、泡を吹いている。
 昨日まで元気だったのに……。

 慌てて、親父の胸に耳をあてる。

「止まっている……」

 口元にも手をあてたが呼吸を感じない。
 同様のことを母さんにも試したがピクとも動かない。

「う、うそだろ……親父とかーちゃん、死んじまっているよ!」

 そんな……別れも告げられずに……俺は……。
 クソッ!

 ~翌日~

 20年ぶりに親戚一同が集まり、お葬式を終えた。
 
「まあ福助ったら、大きくなったわねぇ……」

 だいぶのボケの入った遠い親戚のおばあちゃんである。

「ま、まあ最近、筋トレにハマってて」
「あらあら、もう働けるんじゃないかしら……」
「そっすね」

 やべぇ! 親父とかーちゃん死んだから年金もねぇ!
 働くという選択肢を、生まれてこの方考えていなかった……。
 ど、どうちよ……。

『少年、お葬式が終わったらハローワークにいこう』

 うるせぇ!