真っ黒な画面。
高くて透き通った声、綺麗なビブラートが印象的な美しい歌声の歌と共にエンドロールが流れてきた。
流れていく名前達。自分の名前が載っているのが嬉しくて、流れてきて消えるまでずっと目で追った。自分の名前しか目に入らなかった。
エンドロールが終わると、台本にはなかった、私の知らないシーンが流れてきた。
映像はセピア色。
線香花火を一緒にしている小さな男の子と女の子の後ろ姿の映像と共にコウのナレーションが流れる。
「ねぇ、君は、覚えている? 十年前、僕がまだ生きていた頃。君は、あの森で、見知らぬ僕と線香花火を一緒にしてくれた。花火をしながら君は言った。『花火大会の打ち上げ花火、見た事ある?』僕は答えた『見た事ない』その時、この打ち上げ花火を一緒に見る約束を、すでにしていたんだよ」
場面は変わり、ラストシーンが撮られた河川敷でひとり空を眺める男の子の後ろ姿。
少しずつ、立ったまま姿が消えてゆく。
打ち上げ花火だけが映る。
文字とコウのナレーション。
「ずっと果たしたかったんだ、この約束を」
END
映画が終わると、みんなで拍手した。
ドアの方からも拍手の音が聞こえてきた。
視線をやると、希くん達のお母さんがうっすらと開いたドアの隙間から覗いていた。
「エンディングの歌、僕たちの母、春子さんが歌いました」
律くんがお母さんを指さして言った。
「えっ? そうなの?」
私は物凄く驚いた。めちゃくちゃ美声で上手だった。
あれ? もうひとり、お母さんの後ろに誰かいる?
覗くと、私の母もいた。
えっ? なんでいるの? もしかして一緒に映画観てたの?
「実は、曲を作ったのは、柚葉のお母さん、秋子さんでした!」
あっちゃんが明るい声で言った。
「いつ柚葉が映画のヒロインやっている事を打ち明けてくれるのかなって、待ってたんだからー!」
私の母は頬を膨らませた。
「柚葉、お父さんにも内緒だったんだけどね、私達若い頃、組んでたの。私が作った曲をはるちゃんが歌って、ねっ!」
お母さん達は目を合わせてにっこりした。
「やりたいと思った事、どんどんやってきな! 今しか出来ない事も沢山あるんだから。芝居も良かったよ!」
全く予想していなかった母の言葉を聞いて、私は大泣きした。母も目を潤ませていた。
帰りは、母と帰った。
出しそびれて鞄に入れっぱなしだった、手作りのお菓子を、家に着いてから、一緒に食べた。
とても美味しく感じた。
撮影が終わってからも、定期的に集まろうって事になった。
いつものように公園に行くと、律くんがいた。公園のテーブルで黙々と何かを書いている。
「あれ? 希くんは?」
「ん? 家で寝てる」
「そうなんだ」
律くんはこっちを向かずに、何かをずっと書き続けている。
「何書いてるの?」
「えっ? 映像化コンテストに出す脚本。ちなみに、次にアオがヒロインする話、もう出来上がっているからね!」
次の私の役は、“ アオちゃん ”か。
律くんは、文章が映像に仕上がる事を実際に見て、感動して、書く事に本気で目覚めたらしい。
しばらくしてから、あっちゃんと希くんが来た。
「柚葉、これからも演技やる?」
「もちろん!」
迷わずすぐに答えた。
「じゃあ、はい! これ、俺もってたわ。あげる! 役に立つか分からないけれど」
あっちゃんが沢山、私の為に書いてくれたノート。絶対に役に立つ。内容もだけど、きっとこれから心の支えにもなると思う。パラパラとめくると、更に書いてくれていた。演技以外の事も書いてくれていて、全部のページが埋まっていた。帰ったら読み直そう。新しく書いてくれたページもすぐに全部読もう。
「ありがとう!」
「いえいえ、あ、そうだ! 北海道がロケ地の全国映画のオーディションあるんだけど受けてみる? 高校生の話だから長期休みに撮影やるとおもうよ」
「オーディションって聞いただけでドキドキする。でも一緒に受けるなら大丈夫かも!」
「よし! じゃあ、対策考えよう。まずリスト選考があるから、書き方を……」
「あ、みんな聞いて! 映画のコンテスト無事に応募出来たよ! 学生部門に応募したんだけど、学生応援企画で、応募した作品、そこのサイトで特集掲載してくれるんだって! 沢山の人に見て貰えるっぽい! そして結果も楽しみ。ねぇねぇ、次の映画撮影の話もしようよ!」
希くんが目を輝かせていた。
家に帰ると、あっちゃんが書いてくれたノートを開いた。演技以外にも、ためになるからって、ダンスの基本とかも書いてある。
本当、小さい頃は無口で冷静なイメージだったのに。今じゃあとても情熱的な人!
めくっていくと、最後の五ページには、あっちゃんが書いたコウの人生が書いてあった。
私の書いたナツのものと違って、物凄く細かい。生きていた頃の話で、嫌いだったトマトが好きになった。きっかけが自分で植えて育てたトマトが美味しく感じたから。とか、そんな事まで書いてある。びっしり小さな文字で書いてあり、全部読んでみた。
ひとつ気になる部分があった。
『六歳、七月三日。ナツと出会う。きっかけは夕方、僕がいつも遊んでいた森に、ナツがお母さんと一緒に来た。そして森の小川の近くで花火をしていた。そこに僕が偶然通りかかる。花火なんて、した事がなかったから、ずっと棒から火が花のように出てきて不思議だった。ずっと、その火を眺めていた。そしたらナツがこっちに来た。一緒に花火をしようと声をかけてくれた。僕は、花火に夢中になっているナツの事ばかり見ていた。友達がいなかったから、とても嬉しかった。話しかけてくれた事が。その時に「花火大会の花火はもっと凄いから! 今度一緒に行こう?」と誘ってくれた』
これ、私とあっちゃんの間でリアルにあった出来事だ。
やっぱり映画のあのラストって……。私とあっちゃんの話?
しかも、読み進めていくと「生きていた頃は、毎年花火を見かけるたびにナツを思い出していた」って内容が書いてあった。
でも、あっちゃん、久しぶりに再会した時「誰?」って私に言ってきた気がする。全く覚えていない雰囲気だったし。もしかして覚えていない振りをしていたの? 声をかけてくれたのも、私だったから?
とりあえず、聞いてみよう!
『今ノート読んだよ! 沢山書いてくれてありがとう! とても勉強になります! ところでコウの生い立ちのやつ、小さい頃の私達のリアルな出来事と重なりすぎるんだけど、どういう事?』
メッセージを送るとすぐに返事が来た。
『こういう事!』
なんで覚えてない振りをしたんだろう。次会った時、理由聞いてみようかな?
私はそのメッセージを見つめながら、微笑んだ。
初めて映画に出演してから、さらさらと流れる風のように時は過ぎ、あっという間に十年が経った。
私は最近、北海道を離れて上京した。
地元とは比べ物にならない程の人だらけの駅前を歩いている。カバンの中にあるスマホのバイブがなった。急いでスマホをカバンから出して電話に出た。
『撮影終わった?』
「うん、終わったよ! あっちゃんは衣装合わせ終わったの?」
『うん。もう駅?』
「駅だよ」
『今からそっちに行くね! 一緒に帰ろ?』
「帰ろ! 待ってるね!」
私たちはそれぞれ今、お仕事で映画に関わっている。まだまだ新人で、学ぶことだらけで悩むこともあるけれど、それらも含めて楽しんでお芝居をしている。
どこまで進めるのか、限界を知りたい。
もしも十年前、ナミダを知らないままだったらきっと、今、私はここにいないと思う。