花火大会の日。

 ナツは濃いピンクの浴衣姿。ひとり河川敷に立っている。

 空を見上げる。

 花火が打ち上げられて、花火が打ち上がるたびに、コウと一緒に過ごした日々を思い出して、涙が頬を伝う。

「一緒に、一緒に花火を見ようねって約束したのに……嘘つき」

 ずっと花火を見つめていた。

「ナツ!」

 ナツは声がした方を向く。

「えっ? なんでいるの?」

 目の前から消えてしまった、コウがいた。

「会いたいから、一緒に花火見たいから来た」

「そういう事ではなくて……」

 コウがナツの隣に来た。

「なんで黙っていなくなったの?」

 ナツの涙が溢れて止まらない。

「ごめん……」

 コウも目に涙を浮かべている。

「僕の大好きな恋人と……。ナツと一緒に花火が見たくて戻って来た。すぐに戻らないといけないけれど」

「はっ? 大好きな恋人? あなたは大好きな恋人を置いていくの? だまって消えるの?」

「ごめん……」

「それに私、もうあなたの事、忘れたから! もう好きじゃないから!」


 潤ったナツの目が泳いでいる。

「僕は一生、ナツが好き。愛している」

「やめて! 忘れようと思ったのに、忘れられなくなるじゃん。私はあなたが嫌い」

 更に涙が溢れるナツ。
 ナツは首を振る。

「本当は、好き……」

 ナツは、呟いた。

「僕も好き。今日ここに来れて良かった。またすぐにあっちに行かないと行けないけれど」

「行かないで、行かないで! お願い……。寂しい」

「僕も寂しい。好きな気持ちのまま離れないと行けないのは、ナツのそんな悲しい顔を見ながら、君の前から消えないといけないのだと思うと、しんどい。しんどすぎる」

 ふたりは花火を背景に抱き合った。そして目を合わせると、手を繋ぎ、一緒に花火を見上げる後ろ姿。

 最後の花火が打ち上げられて、しんとなる。

「今日、一緒に花火が見られて良かった。もう行くね! ナツの前から消えても、ずっと愛しているから。前に進むのが怖くなった時とか、ふと思い出して? 僕はナツの心にずっと寄り添っている。だからナツはひとりじゃないんだって事を覚えていて?」

 ナツはコウを見つめながら何か考えている。

 ナツはコウを抱き寄せた。
 しばらくふたりは沈黙して抱き合ったまま動かない。

 しばらくすると、身体を離し、両手を取り合ったまま、お互いの目を見つめ、ふたりは微笑んだ。