シーンの映像はさっきよりも少し暗め。
 外は大雨、小屋の中。
 
「もう、来るな!」
「なんでそんな事言うの?」
「もう会いたくないからだ!」
「ひどい」
 二人は怒鳴りあっている。

 ナツは仲良さそうに並んでいたふたつのマグカップを壁に投げつけて、割った。

 そして外に勢いよく飛び出した。

「はぁー。ずっとこの世界にいられないのは、ナツのせいじゃないのに、やつあたりして、ごめん」

 コウは頭を抱える。
 開きっぱなしのドア。外を見た。

「雨、すごい。ナツ、濡れちゃうじゃん」

 傘を持ち、傘を閉じたままずぶ濡れになりながら走る。ナツを追いかけようとするけれど見当たらない。

 森を抜けたらすぐ見える道路の向こう側にナツがいた。コウは全力で森の入口まで走り、立ち止まる。

「ナツ!」
何度も呼ぶがナツは気が付かない。

「森から出たら僕は……。でももう彼女はここに来てくれないかも知れない」

 コウは森から出る。

 コウの姿が透明になってくる。
 消えかかっている手を確認する。

 ――まだ消えたくない! お願い! せめてこの傘を渡して……仲直りがしたい。

「ナツ! ナツ!」

 何回も呼ばれ振り向くナツ。誰もいない。

「あぁ、嫌だ。まだ消えたくない……。あの日の約束、まだ叶えてない。森に引き返せば姿戻るか……駄目だ。もう動けない」

 コウの身体は少しずつ透ける。
 完全に、消えた。

 ナツは次の日、仲直りがしたくて小屋に行くけれど、コウに会える事はなかった。

 ナツは何日も森に通った。
 通ってるうちにふと思い出す。

 コウが時々透けていて、見えるはずのない身体の向こう側にある緑の木がうっすら見えていたことを。

 「もしかしてコウは……でも…」