「ナツ!」

 花火を見つめ、演技に集中していると聞き覚えのある声。思わず花火から視線を外してはいけないのに、カメラが回っている事を忘れ、声がした方を向いてしまう。

「えっ? なんでいるの?」
「会いたいから、一緒に花火見たいから来た」
「そういう事ではなくて……」

 突然目の前から消えてしまった、彼が、今、いる。

「なんで黙っていなくなったの?」

涙声で私の声がぐしゃぐしゃ。

「ごめん……」

彼も同じような声。

「僕の大好きな恋人と……。ナツと一緒に花火が見たくて戻って来た。すぐに戻らないといけないけれど」

「はっ? 大好きな恋人? あなたは大好きな恋人を置いていくの? だまって消えるの?」

「ごめん……」

「それに私、もうあなたの事、忘れたから! もう好きじゃないから!」

 彼がいなくなってから自分に言い聞かせてきた言葉を、思い切り彼にぶつけた。

「僕は一生、ナツが好き。愛している」

「やめて! 忘れようと思ったのに、忘れられなくなるじゃん。私はあなたが嫌い」

 もう彼に何を伝えたいのか、自分が何を言っているのか分からない。好きじゃない、嫌いって言葉を彼にぶつけるたび涙が溢れてきて、今、自分は嘘をついているんだって気付かされる。

「本当は、好き……」

 本音を、精一杯の言葉で呟いた。

「僕も好き。今日ここに来れて良かった。またすぐにあっちに行かないと行けないけれど」

「行かないで、行かないで! お願い……。寂しい」

「僕も寂しい。好きな気持ちのまま離れないと行けないのは。ナツのそんな悲しい顔を見ながら、君の前から消えないといけないんだと思うと、しんどい。しんどすぎる」

 彼が近づいてきて、私達は花火を背景に抱き合った。そして目を合わせると、手を繋ぎ、一緒に花火を見上げた。 

 最後の花火が打ち上げられて、しんとなる。

「今日、一緒に花火が見られて良かった。もう行くね! ナツの前から消えても、僕はずっとナツの事を愛しているから。前に進むのが怖くなった時とか、ふと思い出して? 僕はナツの心にずっと寄り添っている。だからナツはひとりじゃないんだって事を覚えていて?」

 彼の話す言葉は芯があって、説得力があるから「そうなんだ」っていつも思わされる。今も少しだけそうなんだなって感じた。一緒に着いていきたいけれど、そう簡単に着いて行くことの出来ない、今の私の立ち位置。早く大人になりたい。

 私は彼と離れるこの気持ちをどうしたら良いのか。

 またいなくなってしまう。せめて彼の感触を私に刻み込んでおきたくて、彼を抱き寄せた。
 それから私たちは両手を取り合い、一緒に微笑んだ。

 ――もう、私達の間に、何も言葉はいらなかった。