花火大会の日が来た。

 川が近くで流れている。人がいなくて、花火が綺麗に見える河川敷。希くん達が場所を一生懸命探してくれたおかげで、とても綺麗な風景が撮れそうだった。

 問題は私の演技が上手くできるかどうか。今の自分、きっと目の前から消えたあっちゃんとコウ、重ね合わせるんだろうな。本番でそれをする事が良い事なのかよく分からない。そうする事をあっちゃんに言ったら、なんて答えてくれるのだろう。

「上手く出来るかな……」

「大丈夫! ナツは短い期間だったけれどめちゃくちゃ頑張ってた」

 律くんが言葉をくれた。

「カメラ越しに演技見ていたけれど良くなってる。ラストシーン、全力でぶつかっていこう!」

 希くんも。

 この街の花火大会、花火が打ち上がるのは三十分。NGはそんなに出せない。というか、一回でOKを出す。

 私は出来る。私は出来る……。


 ふと、思い出す。

「私、ヒロイン役、無理かも。演技出来ない。特に花火を見ながら泣くシーン。私ね、怪我して痛かった時にしか、泣いた記憶がないの」

「出来る、大丈夫!」

 私があっちゃんに、弱音を吐いた時、彼はそう言いきってくれた。その時の景色が鮮明に浮かんできた。

 花火が打ち上がる時間が近づいてくる。

 あっちゃんか、コウか、もうどっちなのか分からないけれど、彼の姿が浮かぶ。

 急に私の前からいなくなってしまった彼。なんだか悲しい気持ちになってきた。その気持ちは少しずつ大きくなって、私の心を支配する。

 スタンバイする。

 カメラが回った。

 空を見上げる。
 カラフルな花火が次々に打ち上げられた。

 コウと一緒に過ごして来た日々を思い出す。最初はコウに警戒していたけれど、少しずつ打ち解けて。一緒に小川や花を眺めたり。毎日私がコウのいる森に通い、お互いに惹かれていき、付き合う。そして、幸せ絶頂の時に、喧嘩して。その時の会話が最後となり、彼が私の前から消えてしまう。そして、幸せの全てが一気に崩れ落ちる。

 涙が溢れてきた。

「一緒に、一緒に花火を見ようねって約束したのに……嘘つき」

 私はずっと花火を見つめていた。