六月下旬。台本の内容を演じる練習が始まった。

 あっちゃんは相変わらず分かりやすく演技について教えてくれる。

 例えば、コウと喧嘩して怒るシーンの時。

「なんでそんな事言うの?」って台詞を上手く言えないでいたら彼に質問された。

「柚葉が普段怒る時ってどんな時? 喧嘩する事ってある?」

「うーん。最近は、二歳下の妹に対して怒ったかも」

「なんで怒ったの?」

「隣の部屋で音楽かけててうるさかったから、後は、貸したお気に入りの服の胸元に大きなシミをつけられたり……」

「ふふっ」

「なんで笑うの?」

「いや、想像しちゃって」

「笑わないでよ! 本当にシミとれなくて、あせったんだから」


「今僕が笑って、怒った?」

「怒った」

「うん、怒るってそれ!」

「……」

「今、どんな感じになった?」

「……なんか、お腹の奥底からイライラが沸騰してくる感じ」

「感情出すの苦手とか言いながら、ちゃんとあるじゃん!」 

「でもね、それをいつも心の中で押さえちゃう。しまい込んで、なかった事にしちゃうの。言いたい事も言えなくて、喧嘩までたどり着けない」

「素直に出してみて? もう一回読んでみよ? じゃあ俺から読むね」

 彼がそのシーンの始まりから読み始める。

「もう、来るな!」

「なんでそんな事言うの?」

 読みながらコウに対してイライラした。そのイライラを表に出す事が出来たのかな? 私、さっきよりも台詞に感情が乗った?

「今読んでいるシーンは、この会話をしてからコウとナツがしばらく会えないから、結構大事な所だよね!」

「そうだね」

 こうやって台本の分析もしながら進めていった。