私は、将来女優になりたいと思っていた。

 最初は自分と違う人になれる、キラキラと輝ける。そんな理由。けれど、雪が積もっている時に、隣の町で大きな映画の撮影があって、エキストラをやってみた時だった。雪道をまっすぐに歩いて主役の人達とすれ違う後ろ姿の役。歩くだけの演技だったんだけど滑って転んで。主役の女優さんが通る道をふさいでしまう形に。

 一緒のシーンに出ていた名前の知らない俳優さんに舌打ちされて小声で「歩くだけだろ」って言われた。なんだか急に撮影現場にいるのが怖くなっていると、わざわざ主役の女優さんが近づいてきて「私も昨日滑ったよ。滑るよね。みんなで一緒に歩くの頑張ろうね」って言って、微笑みまでくれた。
 映画は一瞬しか映らない私も含め、みんなで作るものなんだという事も教えてくれた。

 “ 本物はいばらない! ”って何かの記事で前に見たことがあって、その文字が目の前に浮かんできた。この女優さんは周りの人達と次元が違う、手の届かない場所にいて、きっと、ずっと第一線にいる。演技も演技だと思わせないくらいの自然な動き。
いつか彼女に追いついて、一緒に演技をしたい。親子とか、先生と生徒役だとかで。それが無理なら、せめて彼女のような女優さんになりたい!
 
 でもどうやって女優さんになるチャンスを掴めば良いのかさっぱり分からない。大きなドラマや映画のオーディションが行われるのは東京ばかり。北海道の小さな町に住んでいる高校一年生の私には遠すぎる。

 それに、私は感情を出すのが苦手。心の中では楽しいって感じているのに「ごめん。つまらなかったよね」って謝られた事もある。怒ったり、泣いたり……お芝居、無理!

 いつか叶えたいその夢は、行動を何も起こせなくて、叶えたいままで終わっちゃう。

 そう思っていた。彼らに出会うまでは。