数日後。その日は、あっちゃんと「エチュード」というものをやる事になった。

「ねぇ、ナツは好きな人、誰でも。動物やぬいぐるみとかでも良いよ! 誰かいる?」

「うーん……。一番に思いつくのは、家にいる犬かな? 白いゴールデンレトリバーのらぶちゃん。女の子!」

「じゃあ、俺、らぶちゃんに今からなる! らぶちゃんが人間になった設定ね!」

 私が小さな頃からずっと一緒にいるらぶちゃんに、あっちゃんが今からなる。想像しただけで何だか面白い。どんな風になるのかな?ってワクワクする。私は私の役?のままで良いのかな?

「あたい、らぶよ!」

 急にあっちゃんの演技が始まった。彼の話し方が急に変わり、声色も高くなった。

「ねぇ、いつも遊んでくれて嬉しいのよ!」

「……」

「何か話して!」

 素のあっちゃんの声に戻り、小声で催促してくる。

 えっ? どうしよう。

 ふたりの間に、音のない時間が流れる。

 リビングで、私がバタバタと忙しくしている。その姿を寂しそな顔しながらこっちを見つめている、窓の前にいるらぶちゃんの風景が、ふと頭の中に浮かんできた。


「……ありがとう」

まずは、お礼を言った。

「でも、最近遊ぶ時間が減ってごめんなさい」

 言葉が自然に出てきた。多分らぶちゃんに対する本音。最近、リアルで遊ぶ時間が減っている。

「こっちこそありがとうよ!」

自然な流れで答えてくれた。
本当に可愛くて愛しいらぶちゃんに見えてきた。

「最近忙しそうだもんね。でも遊べなくても、ただ隣にいてくれるだけでも嬉しいかも! 話しかけてくれたら尚更! 本を読みながらでも良いし」

 実際、らぶちゃんの気持ちはらぶちゃんにしか分からないけれど、なんだか今、あっちゃんにらぶちゃんが乗り移っている気はしてる。