期末テストのメリットなんて学校が早く終わるくらいのことしかない。特に可もなく不可もなく。七星とした勉強の成果も出たとは言い難い手ごたえだった。
途中のハンバーガーショップで適当に昼ご飯を済ませ帰宅すると、家に母はいなかった。

最近母とは会っていない。母は根っからの夜型人間だ。詳しくは知らないが、いつも日が暮れてから家を出て朝に帰ってくる。母が帰ってくる時間より私が学校に行く時間のほうが早いことすらある。男と逢瀬を重ねているのか、夜のお仕事をしているのかは、知らないし興味もない。机の上にお金を置いて、冷蔵庫を適度に補充しておいてくれればそれでいい。私にとって母とはその程度の存在だ。
それでも無関心でいることはできず、やはり嫌いだと再確認する。

この時間は家で寝ているかと思っていたが、いないようだ。

ソファに腰掛けるとドッと疲れが襲ってくる。
「ふぅぅ」
落ち着いてリビングを眺めてみるとなんとも統一性のない部屋だと感じる。ソファは足のついた少し背の高いものなのに、目の前にあるのはローテーブルだ。ソファに座りながらご飯を食べようと思えば猫背にならざるを得ない。
テレビ台はあるのに、テレビはない。テレビがないことで不便を感じたことはないのだけれど、テレビ台だけあるというのはとても不格好に見える。テレビの代わりに載っているのはなぜかクマの木彫りとスノードームだった。
テレビ台の横には我が家でも異質な存在感を放っているサーフボードがかかっている。もう何年も使われている様子はなく、色あせている。
その手前には平積みされたたくさんの本。何年か前に流行した小説や自己啓発本、『恋愛黒心理学』などという怪しげな表紙の本が床に乱雑に置かれていた。

統一感がないのはきっといろいろな男の影響を受けているからだろう。言うなればリビングはこれまでの父親のエッセンスが詰め込まれた巣窟だ。

そんな私にとってリラックスとは遠く離れたところに位置する場所ではあったが、テストの疲れはやはり私の身体をむしばんでいた。
学生にとってテストは毒だ。
なんて考えながら微睡んでいると、玄関のドアがガチャリと開く音がする。

慌てて跳び起きたが、間に合わなかった。

「あれ、芽衣。あんた学校は?」

リビングの出入り口をふさぐような形で母がいる。どこに行っていたか知らないが、母にしてはこざっぱりした格好だ。カバンもブランドものというわけではなかった。

私はわざと聞こえるように舌打ちをする。
「テスト」
「あ、そう。じゃ、私寝るから」

出入口を明け渡して自室へと下がっていった。

もう眠気など感じなかった。久々に話した母に、ただただイライラした。たった一言の会話が耐えられなかった。
この場にいない母への怒りを込めて、積まれた本を蹴り上げた。
何人目の男の趣味だろうか。数冊崩れて、ドラッカーの『マネジメント』が新しく一番上の本となって、大きな文字が目に入った。その表紙にすらイライラしてもう一度本の山を蹴りつけた。