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「芽衣ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「ちょ、ちょっと。いいってこんなことやらなくても」
目の前にはクラッカーを鳴らす七星と、正式に父親となった佐さんがいる。私は今日で17歳になったわけだけど、17歳になってお誕生日会なんてこっぱずかしくてたまらない。しかし当の本人はそっちのけで2人は盛り上がっている。私が付けるべきであろう「本日の主役」襷をなぜか七星がつけていた。
「さあさあ、早速ではございますがケーキを登場させちゃいましょうか」
そう言って佐さんがキッチンへと下がっていった。今まで誕生日をめでたい日だと感じたことはなかった。生まれた日は祝うべき日かもしれないが、その十数年前の記念日をいつまで引きずっているのだと思っていた。しかしわかりやすく浮かれる七星と佐さんを見ているとわかった。誕生日は私が祝われること日ではなく、周りの人が祝う日なんだ。
そう思うと、2人のことがほほえましく感じた。
「じゃーん」
贅沢にホールのショートケーキ。幾層にも積み重ねられたイチゴと生クリームとスポンジの層は見るだけで幸福感を与えた。そしてその真ん中にはホワイトチョコレートを添えて、こう書かれていた。
『May Happy Birthday!』
「ちょっとおじさん、芽衣ちゃんのスペル違うよ」
「え、うそ。えーちゃんとケーキ屋さんに伝えたはずなのに」
「頼むよおじさん」
「ちょっとどうしよ。変えてもらう?」
すっかり仲良くなった2人がおろおろと慌てている。
「大丈夫だって。私は5月生まれの芽衣なんだからあながち間違ってない」
「ほんとごめんね」
「いいってば。ほら食べよ」
佐さんが渋々といった感じで切り分けてくれた。もちろん私のお皿にはホワイトチョコレートが乗っけられた。
誰にも言っていないが、実は私は意外に『May』というスペルが好きだったりする。『M』はこのチョコペンで書かれた丸文字のように書けば、ハートマークの上半分のようだ。それに続く『ay』もそれだけで読めば『あい』だ。『May』には直接は見えなくても、愛が隠れている。それはまるで狡い大人が見せる大逆転みたいな発想だ。
あなたは言ったよね。芽衣という名前は私が自由に受け取っていいって。だから私は決めたんだ。
芽衣という名前は母親からの不器用な愛がわかりずらく隠された素敵な名前なんだ。
「ねえ、七星」
ん? と言ってケーキにかぶりついていた七星が顔をあげる。口元についたクリームがあざとい。
「受け取ってほしいものがあるの」
「なんで僕が受け取る側なんだよ。プレゼント用意してるんだよ」
「いいから。待ってて」
私はかつて母の部屋だった場所に入った。今ではそこに仏壇が置かれている。私は母に一言謝ってから仏壇のモノを手に取る。
「これを受け取ってほしいの」
「……セブンスター?」
「うん。母が吸ってたやつ。セブンスターは七星が持っている方が似合うと思って……。でも変だよね。17歳にタバコをプレゼントするなんて。それに母親のとか七星には関係ないのに。でもそういうんじゃなくて、」
「ありがとう。嬉しいよ」
七星はタバコをとても大事そうに抱えた。彼の名前を冠したそのタバコ。父親の愛情が豪快に詰め込まれた彼の名前に私からの愛情も1本だけ入っていればいいな。
そう思った。
「本当にありがとう。そしてお誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう」
これから何度でも何度でも言おう。
ありがとう。