佐々倉に指導を依頼するくらいの生徒は、佐々倉が一度、指導したところで変わるわけのない生徒なのだ。佐々倉にかかれば、そういう生徒は、即、顧問の教師に指導を依頼されてしまう。
 教師からの指導ということは、風紀委員の指導とはまったく違ってきてしまう。
 タバコを見つけた場合は、法律違反なので即、教師からの指導になる。
 美咲が耳にしたうわさでは、タバコで指導になった生徒は、退学になったらしいとのことだ。
 教師からの指導では、いくら常習犯でも、校則違反で退学にはならないと美咲は思っているが、停学とかになってしまうかもしれない。停学くらいならと思う人もいるかもしれないが、それで出席日数が足りなくなって、留年。そして自主退学。
 と、いうことがおこりうるかもしれない。
 そんなことになったら、その生徒の人生を狂わせてしまうのではないのだろうか? と思うとこわくなってしまう。
 そう思って、美咲はまだ佐々倉に指導を依頼していない生徒を、個人的な理由でマンツーマン指導し続けているのだ。
「生徒手帳を提出してください」
「持ってねえよ、そんなもん」
「そうですか。では、この書類に記入してください」
 そう言って、校則違反者の始末書を差し出すが、彼は置かれたボールペンを手に取ろうともしない。
「では、わたしが記入します」
 駿河真。二年B組。出席番号八番。
 聞かなくても、彼のデータをスラスラと書いていく。もう、毎回のことだから覚えてしまった。
 違反箇所の欄には、髪型とピアスとアクセサリー、服装。そして遅刻にチェック印を入れる。男子だから、かろうじて化粧とマニキュアにチェックがつかないだけで、ほとんど全部だ。
 駿河は、肩につくかつかないかくらいの長髪を金色にブリーチをしている。
 風紀委員のチェックをすりぬけるために、長髪にしてピアスを隠している生徒はいる。 だが、駿河の場合は長髪でも、耳が見えるような独特なカットをしたヘアスタイルなのだ。しかも、耳たぶにはボディピアスと呼ばれる、通常よりも太いゲージの目立つピアスをつけ、美咲は数えたことはないが、耳輪にも何個もピアスをつけている。
 他にも、首にはシルバーのネックレス。
 学校指定のネクタイをしてこない。
 派手ではないがいつも黒や青などと、校則で決められている白のワイシャツを着てこない。