そのため、風紀委員と言えば佐々倉と言われるくらい実績も経験もあり、余裕を感じるが、それをひけらかしたりしない。仕事は丁寧に教えるし、どんな相談にでも快くのる。だから、風紀委員になった生徒からの人望も厚い。
 美咲も同じである。特別視されたことによって、使命感のようなものを持つようにもなったし、いざというときには頼れる委員長なので、佐々倉を尊敬するようにもなった。
 シフト制なので毎回ではないが、佐々倉と同じ日に当番になったりもする。尊敬する先輩と一緒の時は、張りあいがあるような気もしていた。少々、引っ込み思案な美咲も、本気で風紀副委員長を目指そうかなと思うくらいだ。
 そんな風に風紀委員の仕事に燃えてきていた美咲だったが、ブラックリストに確実に名前が載っているだろう、風紀委員泣かせの校則違反常習者が数名いるのだ。
 そういう生徒たちは、放課後に指導室に呼び出して、マンツーマンで指導していかなければならない。そのマンツーマン指導が、今の美咲の悩みの種となっている。
 毎朝、微妙に一、二分、遅刻してくる生徒がいるのだ。
 学校の生徒用玄関は、八時半になると風紀委員が内側から鍵をかける。遅刻者を見逃さないためだ。そのため、遅刻者は唯一鍵の開いている職員用玄関から入り、待ちかまえている風紀委員に指導される仕組みだった。たまたま遅刻しただけだったり、数回程度ならその場での指導でかまわないことになっているが、常習犯はブラックリストに載ることになる。
 ―――やっぱり今日も遅刻か。
 悪びれもなく職員用玄関から入ってきた男子生徒・駿河真(するがまこと)。何度指導しても時間通りに登校してきてくれない。たった一、二分ならほんの少し家を出る時間を早めるなり、なんなりとできるはずなのに。この人は時間を守ろうという意識がまるでないのだろうと、美咲はハアと肩をおとした。
「……放課後、指導室に来てください」
 今日もこの言葉を言わなければならないのか……と、美咲は気分が一気に重くなる。
 指導室でのマンツーマン指導は、佐々倉が作ったマニュアル通りに行えばいいことになっている。
 そのうえで、それでも直す意志のない生徒は、委員長である佐々倉に依頼する。
 佐々倉は、この世の中には『善』と『悪』しかないと思っているのではないかというくらい、極端な性格なのだ。