彼女の話を、私はただただ聞いていた。
「私、何があってもこの子を産むぞってきめてたんだけどね。だめだった。私にはお父さんもいないし、お母さんは、私すらも愛してくれなかった。毎日毎日ぶたれてさ。でもすごいよね。あんなにヒステリックに殴って来るのに、ちゃんとお腹とか背中なの。腕とか足とか、普段肌が見える所は絶対にぶたないんだ。でもさ、そんな人がいるところに、赤ちゃんなんて産めないでしょ。それに、現実的に考えても、無理だった。結局、その子を産むなんて、できなかったの」
彼女になんて言えばいいのかわからなかった。でもきっと、泉さんは私に何かを期待していたわけではないのだろう。きっと、ただ話したかったのだ。
「産んであげられなかった子のことは、今まで一日だって忘れたことなんてなかった。でも、あの時の私に言ってあげたいんだ。あんた、ちゃんとお母さんになってるよって。時々その子のこと考えて、凄く悲しくなったり、自分を責めたりすることもあるけれど、そんな私を支えてくれる家族がいるんだよって。そしてそれを、ちゃんと幸せって思えるようになったんだよって」
最後のその声をかき消すように、前の方からセリーヌちゃんが泉さんを呼んだ。
「おかーさーん!」
泉さんは元気よく、はーい、と返して手を振った。
「きいちゃんありがとう。ここでいいよ。今日は本当にありがとうね」
それだけ言うと泉さんは片手をあげて小走りに駆けて行った。私はその場で彼女たちを見送ると、背を向けて歩き出した。
私の手術が終わった後、泉さんはお見舞いに来てくれた。その時、彼女は私に言えない秘密があると言っていた。そして、それはきっとこれからもずっと言えないとも。けれど今日、それを私に告げてくれた。きっと、彼女の中で心の整理がついたのだろう。あの時は本当に、死ぬまで言わないつもりだったのだと思う。けれど実際に結婚し、子どもを授かり、だんだんと彼女の心の中の整理がついたのだ。私達はこうして、短い人生の中で、壊れたものを積み上げ直していくのかもしれない。壊れたその時は、人生そのものが壊れたように思うけれど、それをまた積み上げ直していくのが、人生なのだ。
その日の夜、私は母に尋ねた。あの日、私に骨髄を提供してくれた時、母は病室で一人だった。その時は寂しくなかったのかと。
「私、何があってもこの子を産むぞってきめてたんだけどね。だめだった。私にはお父さんもいないし、お母さんは、私すらも愛してくれなかった。毎日毎日ぶたれてさ。でもすごいよね。あんなにヒステリックに殴って来るのに、ちゃんとお腹とか背中なの。腕とか足とか、普段肌が見える所は絶対にぶたないんだ。でもさ、そんな人がいるところに、赤ちゃんなんて産めないでしょ。それに、現実的に考えても、無理だった。結局、その子を産むなんて、できなかったの」
彼女になんて言えばいいのかわからなかった。でもきっと、泉さんは私に何かを期待していたわけではないのだろう。きっと、ただ話したかったのだ。
「産んであげられなかった子のことは、今まで一日だって忘れたことなんてなかった。でも、あの時の私に言ってあげたいんだ。あんた、ちゃんとお母さんになってるよって。時々その子のこと考えて、凄く悲しくなったり、自分を責めたりすることもあるけれど、そんな私を支えてくれる家族がいるんだよって。そしてそれを、ちゃんと幸せって思えるようになったんだよって」
最後のその声をかき消すように、前の方からセリーヌちゃんが泉さんを呼んだ。
「おかーさーん!」
泉さんは元気よく、はーい、と返して手を振った。
「きいちゃんありがとう。ここでいいよ。今日は本当にありがとうね」
それだけ言うと泉さんは片手をあげて小走りに駆けて行った。私はその場で彼女たちを見送ると、背を向けて歩き出した。
私の手術が終わった後、泉さんはお見舞いに来てくれた。その時、彼女は私に言えない秘密があると言っていた。そして、それはきっとこれからもずっと言えないとも。けれど今日、それを私に告げてくれた。きっと、彼女の中で心の整理がついたのだろう。あの時は本当に、死ぬまで言わないつもりだったのだと思う。けれど実際に結婚し、子どもを授かり、だんだんと彼女の心の中の整理がついたのだ。私達はこうして、短い人生の中で、壊れたものを積み上げ直していくのかもしれない。壊れたその時は、人生そのものが壊れたように思うけれど、それをまた積み上げ直していくのが、人生なのだ。
その日の夜、私は母に尋ねた。あの日、私に骨髄を提供してくれた時、母は病室で一人だった。その時は寂しくなかったのかと。
