木春菊が咲く。

すると俯いていた父は顔を上げて、少し遠慮がちに頷いた。きっとかすみのこの顔を見たくてついつい買ってしまったのだろう。孫には甘いとはよく聞くが、父はまさにそうだった。
「こんなにいっぱい食べられないでしょって言ったんだけどね」
そうため息をつく母だったが、かすみの笑顔を見て嬉しそうでもあった。私はかすみを席に座らせて眉をひそめた。
「本当にそうだよ。こんなにいっぱい、どうやって消費するの。これ五人で食べる量じゃないでしょ」
するとかすみの隣に座った涼が嬉しそうに言った。
「うわあお義父さん、俺の好物の砂肝まで買ってくれたんすか!?」
まったく、涼ってば。呆れる私をよそに、父はぶっきらぼうに答えた。
「それは俺が好きだから、買った」
うそつき、と母がぼそりと言ったが、父は聞こえないふりをするだけだった。
「でも本当にどうするのよこれ」
席に着きながらぼやく私に、母が言った。
「もう対策は練ってあるって。そろそろ着くころだと思うんだけど」
「着く?」
私が首をかしげると同時に、家のチャイムが鳴った。
「はいはーい」
母がインターホンも通さずに元気にそう返事をするので、かすみも真似した。
 しばらくして廊下から話し声が聞こえてきた。話し声だけで誰が来たのか、私はすぐにわかった。案の定、扉の向こうからやってきたのは、相変わらずスタイル抜群の泉さんだった。いや、今はもう泉さんではない。ニコラさんだ。泉マキさんは高校を卒業すると、言語の研究に特化した大学に入学した。そして就職する前に数年ほどアメリカに留学したのだ。杉野君とは高校卒業時に別れていた。彼女はアメリカで同じ留学生のアンドレ・ニコラさんと交際を始めた。二人はめでたく結婚し、アンドレさんは日本に移住したのだ。今や二人にはドリーヌ君とセリーヌちゃんの双子がいる。
 金髪の元気な双子はかすみよりも二つ年下だが、仲が良い。実は、かすみとこの双子ちゃん達は幼稚園が一緒なのだ。私達の家と泉さんの家は案外近く、母たちよりも会う回数は多い。
「かすみちゃん!」
セリーヌちゃんが手を振ると、かすみは席を半分あけた。
「セリーヌちゃん!一緒座ろ!」
するとドリーヌ君は指をくわえながら泉さんに寄りかかった。泉さんはフランス語でなにやらドリーヌ君に話かけたが、彼は指をくわえるだけで首を横に振った。
「じゃあお母さんと一緒に座る?」