木春菊が咲く。

涼はそう言うと、苦笑しながらため息をついた。私も他にお店がないか考えながら前を見た。車を止めてだいぶ時間が経ったので、フロントガラスに桜の花びらが舞い散って所々を隠していた。ふと、ある考えが浮かんだ。私はもう一度振り返り、かすみに言った。そして鞄から携帯を取り出すと、母に電話をかけた。数回のコール音の後、母の明るい声が耳に届いた。
「あらきいちゃん、久しぶり。どうしたの」
私は、久しぶり、と返しながらかすみの方を見て言った。
「ねえ、今から家に行ってもいい?それで、一つお願いがあるんだけど…」
それから数度会話を交わし、私は電話を切った。涼は既に母の家までの道をナビに入れている。私はにっこりして振り向いた。かすみがどうしたのかと首をかしげる。
「かすみ、さくらおばあちゃんち、行こうか」
するとかすみの顔がぱあっと明るくなった。ころころ変わる表情は、まるで桜さんだ。
「うん!」
かすみは元気よく頷くと、オムライスの歌はおばあちゃんの歌に変わった。運転席の涼も一緒になって歌い始めた。
「そんじゃ、おばあちゃんちまで出発進行」
涼はそう言うと車を出した。お寺を出る時、住職が手を振ってきたので、私は頭を下げた。かすみは窓を開けて両手を振っていた。
 それから三十分ほど車で走ると、懐かしの我が家が見えてきた。涼と結婚してからは実家を出ていたので、ここには年に数回しか訪れない。少し古びたものの、その他はあまり昔とかわらない。車を止め、後部座席のかすみをおろしていると、後ろから母が私を呼んだ。
「きいちゃん、かすみちゃん、涼くん!よく来たねー」
「おばあちゃん!」
かすみはそう叫ぶと母のところへと一目散に駆けていった。元気だね、と笑う母にかすみが嬉しそうに報告した。
「あのね、今ね、おばあちゃんのおはかまいりに行ってきたんだよ!そこのね、さくらがね、すごくきれいだったの!ほら!」
かすみはそう言うとずっと握っていたあの桜の花びらを母に見せた。しわしわになった花びらを大事そうに受け取りながら、母はそれを日にかざした。
「本当に綺麗だね」
でしょ、とかすみが笑った。
「突然押しかけてごめんね」
私が涼と一緒に玄関まで来ると、母は手をひらひらさせながら笑った。
「気にしないで。どうせ暇だったし」
母は、それより、と言うと私にウィンクし、かすみを抱き上げた。