木春菊が咲く。

 それから家に帰った大地は、ひとりでずっと考えていた。過去を知った桔梗は、生きることを投げ出してしまったが、そんなこと、大地が望んだ結果ではなかった。あの時桜が桔梗に言ったように、生きてほしいから告白したのだ。自分が告白したせいで、桔梗が生きることを拒否する等、何としてもやめさせなければならない。それが大地にできる桔梗への“支え”であり、贖罪でもあったのだ。けれど、どんなに悔やんでも過去は変えられない。タイムスリップなんてできない。あの時、ああしていればなんて何度も思った。そこまで戻ってやり直せたらどんなに楽だっただろう。けれど、決してそんなことはできないのだ。だから、今できることを、するしかないのだ。大地は携帯を取り出すと電話をかけた。数回のコール音の後、あの頃の自分と同じように若さであふれた声が聞こえた。大地は、涼に桔梗を救ってくれるように、頼んだのだ。
「だから、君から桔梗に言ってくれ。手術を受けてくれって」
「でも、俺、振られて…」
「このままだと桔梗は死ぬんだ」
どこか頼りない彼に、大地は追い込むようにそう告げた。いや、頼りないなんて自分が言えるか。まだ十代だ。十代の若者に、今大地は自分の娘を託しているのだ。頼りないのは、どっちだ。
「頼む。桔梗に言ってくれ。生きてくれって」
大地がそう言うと、しばらくの沈黙の後、再び彼の声が聞こえた。けれど今の彼の声は、覚悟を決めた声だった。
「わかりました。俺が、きいちゃんを、桔梗を、守ります」
大地はこぼれ落ちそうな涙を何とか堪えて頭を下げた。
「ありがとう」

* * *

 かすみと涼が待っていた車に乗った私は、助手席でシートベルトをしめながら涼に聞いた。
「お店、見つかった?」
涼は頭を掻きながら首を振る。
「いやー。この辺なんもないわ。オムライスがありそうなお店はとくに・・・」
涼は申し訳なさそうに後ろを振り向いた。かすみはご機嫌にオムライスの歌を歌っていた。
「かすみ、オムライス以外だったら、何が食べたい?」
「おむらいす」
「…ですよね」