木春菊が咲く。

 骨髄移植が必要になった時、桜が適合者だと聞いて、大地は心の底から安心した。けれどそれと同時に、いよいよ大地と桜と、そして希の過去を彼女に伝えなければならない、と覚悟を決めた。桜ははじめこそ反対したが、これ以上桔梗に隠し事はしたくないという大地の気持ちに、最後には納得してくれた。この決断が、正しかったのか、間違っていたのか、わからない。この決断だけじゃない。桔梗が生まれてから、自分がとった行動は正しかったのかどうか、まるでわからない。子どもを産めば親になれると思っていた。けれど命を育てるということは、人を育てるということは、どうしようもないほどわからないことばかりで、果てしなく不安だったのだ。実際、この告白をしたことで、桔梗を傷つけてしまった。生きることを投げ出した彼女の瞳を見て、大地は耐えがたい程に後悔した。
 あの日、桔梗に“帰って”と言われて病室を出た後、大地と桜は廊下で石川先生に会っていた。事の顛末を聞いた先生は、大地と桜に、静かに告げた。
「生きていく以上、幸せであり続けることはできません。幸せに生きてほしいと思うのは当然ですが、この世界はあまりにも残酷です。私は仕事柄、何度もそれを見てきました。人間がひとりで生きていけないのは、そういうことなんです。身を守ることも、獲物を狩ることもできないという理由だけじゃない。人間は傷つけ、傷つく生き物だから、支えが必要なんです。だから私たちは、ひとりでは生きていけないのです。心を持つ以上、一人では生きていけないのです。だから家族があるんです。八百瀬さん、桔梗さんにはお二人の支えが、これからも必要なんですよ。これまでと同じように」
先生はそれだけ告げると、では、と去っていった。