大地は何度も手紙を読み返し、封筒を掴むようにして手に取ると、住所を確認した。そして桔梗をおんぶし、家から飛び出したのだ。車をとばし、ある一軒家の前でとめた。桜は引っ越したらしく、高校生の頃に住んでいた家とは違っていた。大地は車の中で深呼吸をすると静かに頷き、ドアを開けた。それからチャイムを鳴らした。首元で桔梗の静かな寝息が聞こえてくる。
はい
桜のお母さんの声がして、一度ぎくりとしたが、大地はなんとか落ち着いてこたえた。
「突然すみません。八百瀬、大地です」
するとインターホンの向こうで、驚きで短く叫ぶ声が聞こえた。それからすぐに扉が開いた。桜が、飛び出してきたのだ。真っ黒な髪に、真っ黒な瞳は十年前と何も変わらない。確かに大人びていたが、十年間眠っていたのだ。彼女の体は小さく、ほっそりとしていた。
「大地君…」
桜は目を潤ませながらその名を口にした。
「桜…」
大地もそう呼んだが、桜の目は大地の後ろに釘付けになっていた。
「その子…」
背中ですやすやと眠る桔梗を下ろそうとした大地に、桜がそのまま、と手で制した。そして声をひそめながら叫んだのだ。
「かっわいい!」
桜の目の中で確かに悲しみが横切ったが、彼女は必死になってそれを隠した。そんな彼女を見て、大地は正直に告げた。
「母親は、いないんだ」
「え?」
顔を上げる桜に、大地は希のことを話した。話を聞いた桜は、心の底から胸を痛めている様だった。
それから二年の歳月を経て、大地は桜と結婚した。けれど式を挙げたのが二年後だっただけで、桜はそれ以前からずっと桔梗の面倒を見ていた。ただ、大地はずっと気がかりだった。希が病気で死んでしまい、桜と再婚したが、この出来事の順番が少しでもずれていたら何もかもが違っただろう。自身へのその不信感はずっと大地にまとわりついていた。やがてそれは罪悪感へと姿を変え、希は勿論、桔梗にも桜にも、いつも心のどこかで申し訳ないと思いながら彼は生きてきた。
はい
桜のお母さんの声がして、一度ぎくりとしたが、大地はなんとか落ち着いてこたえた。
「突然すみません。八百瀬、大地です」
するとインターホンの向こうで、驚きで短く叫ぶ声が聞こえた。それからすぐに扉が開いた。桜が、飛び出してきたのだ。真っ黒な髪に、真っ黒な瞳は十年前と何も変わらない。確かに大人びていたが、十年間眠っていたのだ。彼女の体は小さく、ほっそりとしていた。
「大地君…」
桜は目を潤ませながらその名を口にした。
「桜…」
大地もそう呼んだが、桜の目は大地の後ろに釘付けになっていた。
「その子…」
背中ですやすやと眠る桔梗を下ろそうとした大地に、桜がそのまま、と手で制した。そして声をひそめながら叫んだのだ。
「かっわいい!」
桜の目の中で確かに悲しみが横切ったが、彼女は必死になってそれを隠した。そんな彼女を見て、大地は正直に告げた。
「母親は、いないんだ」
「え?」
顔を上げる桜に、大地は希のことを話した。話を聞いた桜は、心の底から胸を痛めている様だった。
それから二年の歳月を経て、大地は桜と結婚した。けれど式を挙げたのが二年後だっただけで、桜はそれ以前からずっと桔梗の面倒を見ていた。ただ、大地はずっと気がかりだった。希が病気で死んでしまい、桜と再婚したが、この出来事の順番が少しでもずれていたら何もかもが違っただろう。自身へのその不信感はずっと大地にまとわりついていた。やがてそれは罪悪感へと姿を変え、希は勿論、桔梗にも桜にも、いつも心のどこかで申し訳ないと思いながら彼は生きてきた。
