住職はそう言いながら私を手招きし、すぐ近くの桜の木の下の岩場に腰かけた。彼は懐から干し柿を取り出して私にくれた。
「あまり長い事手を合わせていらっしゃったので、声をかけたんです。いや、本当にずっと手を合わせていました。何時間も、何時間も。私が何か不安なことでもあるのかと尋ねると、その男性が仰いました。自分には娘がいて、今手術を受けていると。その子の母親、その方はその子を産んでいないようですが、母親には変わりないでしょう。その子を助けるために、自らの体の一部を差し出すことを惜しまなかったというのですから」
住職は散ってきた桜の花びらを手ですくった。
「手術の際、その男性は、一度は奥様に付き添おうとしたらしいのですが、奥様が仰ったのです。その子は私たちと、以前亡くなったもう一人の母君の子だから、三人でその子を助けるのだと。なのでその男性はここへ赴き、必死に祈っておられたのです」
だから同じ墓石に手を合わせていた私が、その子だと思ったのだろうか。私がそう尋ねようとした時、住職はそれを手で遮った。
「縁と言うのは、不思議なものです。実は私も、数年前の夏に入院しておりまして。その時見舞いに来てくれた私の母が言っておりました。同じ病院にいるとある女の子の後ろに、とても優しそうな女性の霊がいたと。きっとその人はその子の母親なのだろうとも言っていました。自分の子どもを心配する親は、生死に関わらず、同じ表情をするものだと」
住職は更に続けた。
「その男性が必死に手を合わせているのを、私が遠くから見ていると、母が隣に来て言ったのです。病院でその女の子の後ろにいた女性が、今あそこで手を合わせている男性の隣で、同じように懸命に、祈っていると。だからきっと、その子は大丈夫だろうと」
手術が終わり、目が覚めた時、私の病室に父はいなかった。きっと桜さんの所にいるのだろうと思っていた。でも父は、ここに来ていたんだ。あの時、桜さんは、ずっと、病室で一人だったんだ。それでも、私の無事を、必死に願ってくれていたのだ。三人とも。あふれ出る涙をこぼすまいと上を向くと、満開の桜が、視界に飛び込んできた。なんとか泣くのを耐えて再び前を見ると、隣に腰かけた住職が穏やかに微笑んだ。
「私は母のように見ることはできませんが、きっとあなたのお母さんは、これからも見守ってくださいますよ」
「あまり長い事手を合わせていらっしゃったので、声をかけたんです。いや、本当にずっと手を合わせていました。何時間も、何時間も。私が何か不安なことでもあるのかと尋ねると、その男性が仰いました。自分には娘がいて、今手術を受けていると。その子の母親、その方はその子を産んでいないようですが、母親には変わりないでしょう。その子を助けるために、自らの体の一部を差し出すことを惜しまなかったというのですから」
住職は散ってきた桜の花びらを手ですくった。
「手術の際、その男性は、一度は奥様に付き添おうとしたらしいのですが、奥様が仰ったのです。その子は私たちと、以前亡くなったもう一人の母君の子だから、三人でその子を助けるのだと。なのでその男性はここへ赴き、必死に祈っておられたのです」
だから同じ墓石に手を合わせていた私が、その子だと思ったのだろうか。私がそう尋ねようとした時、住職はそれを手で遮った。
「縁と言うのは、不思議なものです。実は私も、数年前の夏に入院しておりまして。その時見舞いに来てくれた私の母が言っておりました。同じ病院にいるとある女の子の後ろに、とても優しそうな女性の霊がいたと。きっとその人はその子の母親なのだろうとも言っていました。自分の子どもを心配する親は、生死に関わらず、同じ表情をするものだと」
住職は更に続けた。
「その男性が必死に手を合わせているのを、私が遠くから見ていると、母が隣に来て言ったのです。病院でその女の子の後ろにいた女性が、今あそこで手を合わせている男性の隣で、同じように懸命に、祈っていると。だからきっと、その子は大丈夫だろうと」
手術が終わり、目が覚めた時、私の病室に父はいなかった。きっと桜さんの所にいるのだろうと思っていた。でも父は、ここに来ていたんだ。あの時、桜さんは、ずっと、病室で一人だったんだ。それでも、私の無事を、必死に願ってくれていたのだ。三人とも。あふれ出る涙をこぼすまいと上を向くと、満開の桜が、視界に飛び込んできた。なんとか泣くのを耐えて再び前を見ると、隣に腰かけた住職が穏やかに微笑んだ。
「私は母のように見ることはできませんが、きっとあなたのお母さんは、これからも見守ってくださいますよ」
