「二つ目は、希さんが亡くなった時」
希さん、その名を聞いた時、私はどうしようもなく胸が張り裂けそうだった。ああ、会ってみたかったな、そんな思いがあふれ出た。
「お父さんは必死になってドナーを探した。でも、見つからなかった。希さんが白血病だってことを知っていても、助けられなかったんだ」
涼は一度口を閉じると、もし私が居なければ、父は希さんが亡くなった時そのまま死んでいたかもしれないと言っていた、と告げた。
「だから、今度は絶対に助けるって、俺に話してくれたんだ。自分や桜さんのことはもう信用してくれないだろうし、父親や母親だとも思っていないかもしれない。だから、俺だったらまだ話を聞いてくれる、そう思ったらしいんだ」
私はその話を聞きながら、父の姿を思い出した。きっと、父が涼に伝えたことは、気持ちも含めて全て本当だろう。でもきっと、それだけじゃない。きっと父は、涼に自分と同じ思いをして欲しくなかったのだ。私が死のうとしていることを知らずに、私が死んでしまうなんてことがないように。私は涼の手を握りしめた。桜さんが言っていたあの言葉はきっと本当だったのだ。自分達がどう思われてもいいから、私が助かることを望んだと。事実を伝えることで私が絶望しようと、私が生きることを、望んでくれたのだ。
「ありがとう」
その言葉は心の底から震えるように言葉になった。涼にきちんと聞こえたかはわからないが、涼はそっと私の肩を抱きしめてくれた。
「きいちゃん、退院、おめでとう」
それから九年後の春、私は満開の桜を見上げていた。温かな風が頬を撫でる。
「お母さーん」
春風にのって、後ろから元気いっぱいの声が聞こえてきた。私が振り返ると、そこには黒い髪をおさげにした女の子が、今拾ったばかりの桜の花びらをつまみながらかけてきた。
「綺麗なお花だねえ、かすみ」
するとかすみはにっこりと笑い、自慢げに花びらを見せてきた。
「とったの。落ちてきたところ、かすみがとったの」
「すごいねえ」
そう言いながらかすみの頭を撫でると、彼女は目を細めて、きゃっきゃと笑った。
「おばあちゃんに見せる」
彼女はスキップしながら鼻歌を歌った。かすみは希さんの墓石の前で、見て見て、と花びらを握った小さな手を振っている。私は今日、娘のかすみとお墓参りに来ていたのだ。
「をおー。すごいな。しかも綺麗な色じゃん」
希さん、その名を聞いた時、私はどうしようもなく胸が張り裂けそうだった。ああ、会ってみたかったな、そんな思いがあふれ出た。
「お父さんは必死になってドナーを探した。でも、見つからなかった。希さんが白血病だってことを知っていても、助けられなかったんだ」
涼は一度口を閉じると、もし私が居なければ、父は希さんが亡くなった時そのまま死んでいたかもしれないと言っていた、と告げた。
「だから、今度は絶対に助けるって、俺に話してくれたんだ。自分や桜さんのことはもう信用してくれないだろうし、父親や母親だとも思っていないかもしれない。だから、俺だったらまだ話を聞いてくれる、そう思ったらしいんだ」
私はその話を聞きながら、父の姿を思い出した。きっと、父が涼に伝えたことは、気持ちも含めて全て本当だろう。でもきっと、それだけじゃない。きっと父は、涼に自分と同じ思いをして欲しくなかったのだ。私が死のうとしていることを知らずに、私が死んでしまうなんてことがないように。私は涼の手を握りしめた。桜さんが言っていたあの言葉はきっと本当だったのだ。自分達がどう思われてもいいから、私が助かることを望んだと。事実を伝えることで私が絶望しようと、私が生きることを、望んでくれたのだ。
「ありがとう」
その言葉は心の底から震えるように言葉になった。涼にきちんと聞こえたかはわからないが、涼はそっと私の肩を抱きしめてくれた。
「きいちゃん、退院、おめでとう」
それから九年後の春、私は満開の桜を見上げていた。温かな風が頬を撫でる。
「お母さーん」
春風にのって、後ろから元気いっぱいの声が聞こえてきた。私が振り返ると、そこには黒い髪をおさげにした女の子が、今拾ったばかりの桜の花びらをつまみながらかけてきた。
「綺麗なお花だねえ、かすみ」
するとかすみはにっこりと笑い、自慢げに花びらを見せてきた。
「とったの。落ちてきたところ、かすみがとったの」
「すごいねえ」
そう言いながらかすみの頭を撫でると、彼女は目を細めて、きゃっきゃと笑った。
「おばあちゃんに見せる」
彼女はスキップしながら鼻歌を歌った。かすみは希さんの墓石の前で、見て見て、と花びらを握った小さな手を振っている。私は今日、娘のかすみとお墓参りに来ていたのだ。
「をおー。すごいな。しかも綺麗な色じゃん」
